第13話 『ナイショ話』
深夜のコンビニ。
店内は静まり返り、微かに残る油の匂いと冷蔵庫の機械音だけが響いていた。
品出し作業をしていたカインの元へ、同僚のひなたがひょっこり顔を出す。
「ねえ、カインさん。ちょっといい?」
「ん? どうした。シフトの愚痴なら後にしてくれ、今すごく“平和な時間”を満喫してるから」
「……いや、違うんだけど、ちょっと聞いてほしい話があって」
ひなたは珍しく真剣な顔で、カインの隣に並ぶと声をひそめた。
「カインさんって、藤咲さんって子……知ってる?」
「藤咲……ああ、時々来る……なんか高貴というか、妙に“異世界の姫感”のある子だろ。そんで、ちょっと挙動不審気味な」
「そうそう、その藤咲さん。実は私の友達なんだけどさ――最近ちょっと変なんだよね」
「変って?」
ひなたは少し照れたように笑いながら言った。
「……“カインさんを見ると、心臓がドクドクする”って言い出しててさ。で、本人は理由がわからないって」
「……は?」
「たぶんね、恋じゃないかなって思ってる。自覚ないみたいだけど、顔真っ赤にして言うんだよ。“あの方を見ると苦しくなるのです”とかって」
ひなたは面白がるようにクスクス笑ったが、カインの顔は若干引きつっていた。
(……恋なわけないだろ。俺のこと断罪した張本人だぞ? どんなジャンルの恋愛感情だよそれ……!)
頭の中ではツッコミが炸裂していたが、表情はなんとか取り繕う。
「……え、あー、そっか。で、なんで俺にその話?」
「いや、本人に面と向かって言うのもアレだし……一応伝えとこうかなって。あと――」
ひなたは人差し指を口に当てて、笑顔でウィンクした。
「この話、藤咲さんにはナイショで。絶対に、ね?」
「……はぁい。胸に秘めときますよ、ええ……(本気で恋だったら、だいぶ重い業だぞ……)」