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第119話 『用水路を荒らす者の正体』

オッサンは、諦めたように頭を掻きながら語り始めた。

「……あれはな、夏の暑い日だった。毎日毎日、草を刈っても刈っても、生え続けるあの草どもにな……うんざりしてたんだ。腰は痛ぇし、日差しはキツいしで、もう限界だった。そんな時に――奴が現れたんだ」

 オッサンの顔が、どこか遠い目になる。

「最初は本当に救世主かと思ったよ。あいつはな、大きな口で“ガバッ”とひと噛みするだけで、50センチ四方の草をまとめて食っちまうんだ。見る見るうちに草が消えていく。ああ、これで草刈りから解放されるって思ったさ」

「ほう、まるで草を喰らう精霊のようだな」

 カインが興味深そうに言うと、オッサンは苦い顔で首を振った。

「いや……そいつは精霊どころか、悪魔に近ぇよ。体長は2メートルほど、見た目は――トカゲっぽい“何か”だ。ただし足が異様にデカくてな。身体とのバランスがどう見てもおかしい。それに、重い。あいつが通った後は地面が沈んでる。草を食べるのはいいんだが……用水路まで踏み潰していきやがる」

「……つまり、そいつのせいで用水路が崩壊したというわけか」

 カインが腕を組み、呆れたように言う。

「そうだ」オッサンは頷く。「で、あの時以来、毎年こいつのせいで補修が必要になっちまった」

 カインはため息をつき、杖を構える。

「それで、このザマか。ふむ、ならば話は簡単だ。そいつを我の華麗なる魔法で退治してくれよう! 元凶を絶たねば、永遠に補修を続けねばならぬではないか!」

「……そいつなら今、牛舎にいる」

 オッサンはさらりと言った。

「牛舎?」カインが眉をひそめる。

「今は藁とかを主に食べさせてる。まあ、草も食うけどな」

「はあ? まさか飼ってるのか!?」

「そりゃあそうだろ。あいつ、普段は山奥に住んでてな。この辺にはいねぇんだよ。わざわざ山から連れてきたんだ。いやぁ、捕まえるの苦労したぜ」

 カインは絶句した。

「おいおい……自分で連れてきて、被害出して、我に補修させておいて……まだ飼う気か!」

 一二三先輩が苦笑する。

「カイン君、もう諦めよう。これ、どうにもできないパターンだよ。用水路より飼い主の方が問題ありそうだし……帰ろうか?」

 しかしオッサンは慌てて両手を振った。

「ちょ、ちょっと待て! 言いたいことは分かる! でもな、真夏の草刈りは地獄なんだよ! 腰もやられるし、日に焼けて皮膚もヒリヒリするし! だから仕方ねぇんだ! ポチに頼むしかないんだよ!」

「……ポチ?」

「そう、あのトカゲっぽい奴の名前だ」

「もう何を言っているのか分からん!」

 カインは頭を抱えながら叫んだ。

「帰る! 我は帰るぞ!」



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