第116話 『用水路の補修なんて聞いていない』
「はぁ〜……やっと帰ってこれた……」
コンビニの自動ドアをくぐったカインは、肩を回しながら呟いた。
「意外と、あの“玉入れ”ってやつ疲れるんだな」
観覧者が参加出来る玉入れがあり2人は参加していた。
「ふぉっふぉっふぉ! ワシはまだまだ元気じゃぞ!」
若返りのネックレスで見た目は二十代のローザが、得意げに両手を腰に当てて笑う。
「人間の子らに混じって玉を投げるとは、なんとも面白い経験じゃったわ! カイン、おぬしの玉の命中率はなかなかじゃったぞ」
「うるさい。玉入れは戦場じゃないんだ、全力でやるもんでもない」
「何を言うか! 戦はどんな形でも全力が美徳じゃ!」
そんな二人の漫才じみた掛け合いを背に、店長がバックヤードから顔を出した。
「おかえり〜。どうだった? 楽しめたかい?」
「うむ、大いに楽しめたのじゃ!」
ローザが笑顔で答えると、店長はニヤリと笑った。
その笑みが、あまりにも“優しすぎた”。
カインはぴくりと眉を動かす。
「……店長? 何か不穏な事を考えているであろう? 我の目は誤魔化せんぞ!」
「おっ、察しがいいねぇ〜」
店長は悪びれもせず、軽い調子で言った。
「でもまぁ、大したことはないよ。あっちの世界でね、ちょうど秋の収穫が終わったらしくてさ。来年に向けて“用水路の補修”をしないといけないみたいなんだ。だから――」
店長はさらっと言う。
「ちゃちゃっと補修してきてね」
「……は?」
カインの笑顔が引きつる。
「いや、ちょっと待て。誰が行くとは――」
だが、店長はもうどこにもいなかった。
言いたいことだけ言って、音もなく姿を消していた。
「……まさか、また異世界か?」
カインが呆れたように天を仰ぐ。
「ふむ、用水路か……懐かしい響きじゃのぅ。昔はワシの故郷でもよく整備したもんじゃ」
ローザは懐かしそうに目を細める。
「おい、ローザまでその気か。お前、適当にやる気だろ」
「なにを言うか! 今回は慎重にやるわい」
その時、ちょうど出勤時間になった一二三先輩が、コンビニの裏口から入ってきた。
「お疲れ様です〜……って、なんですかこの空気。カイン、顔こわっ」
「店長がまた勝手に仕事を押し付けてきた」
「今度は何の仕事?」
「“用水路の補修”」
「……地味!」
一二三先輩が即座にツッコむ。
「異世界行ってまでやる仕事か、それ!?」
「我もそう思う」
「ふふふ、異世界の用水路は奥が深いのじゃ。流れを制す者は、実りを制す!」
ローザは何故かやる気満々だった。
カインは、ため息を一つ。
「……はぁ、嫌な予感しかしない」
そう言いながらも、結局二人はまた店の異世界への扉へと向かっていくのだった。




