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第114話 『運動会当日』


 運動会当日の朝。

 いつもより早い時間から、コンビニの前の通りはざわざわと人の気配で騒がしかった。

 子どもを連れた親たちが飲み物を買いに来て、学生たちが氷を求めて走り込み、

 さらには先生らしき人物が「テントの下に差し入れ置いといて!」と叫びながら駆け抜けていく。

 開店からしばらくして、カインとローザの立つレジには、

 ジュースの段ボールを抱えた客がひっきりなしに並んだ。

 ローザは普段の落ち着いた口調を完全に捨て、

 半ば必死にレジを打ちながら叫ぶ。

「次の方、早く並ぶのじゃ! 氷は右側、冷えた飲み物は左側じゃ! あとストローは自分で取るのじゃあ!!」

「おいローザ、店員が客に号令出すな!」

「号令ではない、戦場指揮じゃ!」

 まさに“戦いの朝”だった。

 だが――。

 時刻が9時を回るころには、ぴたりと客足が止まった。

 あれほど騒がしかったレジ前も、今は静まり返っている。

 ローザが、レジのカウンターに肘をつきながらぼそりと呟く。

「……ぬ。なんじゃこの静けさは。嵐の後のようじゃ」

 カインは腕を組みながら、店の外をちらりと見やった。

 遠くの学校からは、拡声器の音と共に賑やかな声が響いている。

「……運動会、始まったんだろうな。

 みんなそっち行ったか」

「なんと、あれだけの人波が一瞬で……!」

 ローザは呆然とした顔で、さっきまでの混雑を思い出していた。

 そこへ、バックヤードから店長が顔を出す。

 腕を組みながら、いつもののんびりとした口調で言った。

「まあ、こんな日もあるさ〜。

 朝のラッシュでちょっと売れたし、十分十分」

 そして、ぽんと手を叩いた。

「せっかくだしさ。もう客も少ないし、運動会、見に行ってくるかい?

 午後はまた忙しくなるかもしれないけど、今のうちだよ」

 ローザの目が一気に輝いた。

「行く! この目で“玉入れ”なる競技を見てみたいのじゃ!」

「……お前、まだそれ言うか」

 カインはため息をつきながらも、ローザの期待に満ちた顔を見ると苦笑いした。

「まあいいか。どうせ暇だしな」

 こうして――。

 カインとローザは、運動会を見に行くことになった。


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