第113話 『運動会の季節』
その日、コンビニのレジにはカインとローザの姿があった。
ローザは、今日も見た目だけは十代そこそこの少女――だが中身は、年齢不詳の元魔王軍の魔導師である。
昼過ぎの、のんびりとした時間帯。
お客の流れも一段落して、店内には静かなBGMだけが流れていた。
ローザが、何やら難しい顔をしてカインの方を見る。
「のう、運動会とやらはなんなのじゃ?」
「ん? 運動会?」
レジに商品を並べていたカインが首をかしげる。
「さっきの客が言っておったんじゃ。“もうすぐ運動会がある”と。
なんじゃその『うんどうかい』という戦いは? この平和そうな世界でも戦があるのかえ?」
その真剣な目に、カインは思わず吹き出した。
「いやいや、戦いは戦いでも平和的なほうのだな。
運動会ってのは、まあ……赤チームと白チームに分かれて競う大会みたいなもんだ」
「ふむ、赤と白……旗の色で分かれる軍か。して、目的は?」
「勝つこと!」
即答するカインに、ローザは思わず身を乗り出した。
「なんと! やはり戦なのか!」
「いや違う! 身体能力を競うだけだって!」
カインは慌てて手を振りながら説明を続ける。
「足の速さを競ったり、“玉入れ”っていう競技でどっちのチームがたくさん玉を入れられるかとか……まあ、戦といっても走ったり跳んだりするだけの大会だ」
「う〜む……弓矢で的を射るような感じかえ?」
「弓矢は使わん。けどまあ、似たようなもんだな。
戦いといっても、誰も傷つけない“平和的な戦”だ」
「ほう……この世界の民は、戦の形すら娯楽に変えるのか。実に興味深いのう」
感心したようにローザは頷き、腕を組んだ。
その姿は、まるで何か国家の戦略会議でも始めそうな真剣さだ。
「ところで、その運動会とやら……コンビニ店員も出るのかえ?」
「いや、主に学生だけだな。コンビニは関係ない」
「ふむ、そうか。なら――」
その時、どこからともなく“ひょい”と顔を出す影があった。
店長である。いつの間にか、背後に立っていた。
「いや〜、出ないけどね。うちは毎年“運動会の日”は大忙しなんだよ」
「っ!? いつの間に……」
ローザが驚いて飛びのく一方、カインは眉をひそめた。
店長は、にこにことしながら淡々と説明を続ける。
「この辺り、小学校も中学校も近いでしょ? 運動会シーズンは、親御さんたちが買い出しに来るのよ。最近は十月でも暑いからね〜、ドリンク類は飛ぶように売れるし。
あと、おにぎり・パン・氷・日焼け止め・冷感シート……全部補充しながら回さないと追いつかないから、覚悟しといてね〜♪」
言い終えるや否や、店長は“シュバッ”と音を立ててバックヤードへ消えていった。
カインは、少しだけ青ざめた顔で呟いた。
「……嫌な予感がする。運動会当日、急用が発生する気がしてきた」
「おぬし! ワシを置いて逃げる気か!!」
ローザがカウンター越しに身を乗り出す。
「いや、そういう意味じゃ――」
「断じて逃げるな! この戦も立派な修行じゃ! ワシも参加するぞ、玉入れとやらにな!」
「いや、客が玉入れするわけじゃないんだが……」
カインは額を押さえながら、
ローザが「玉入れ」という未知の競技にやる気を燃やしている姿を見て、
どう説明しても無駄だと悟ったのだった。




