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第112話 『カインが断罪された理由』


藤咲フィアナが、カインの「断罪」に至るまでの経緯を静かに思い返していた。


あの頃の話は、街でも屋敷でもよく耳にした。

最初のうちは、誰もが「またカイン様の悪戯だ」と笑って済ませるような、可愛いものだった。

書類の順番をぐちゃぐちゃにしてみたり、

玄関に並んだ靴を片方ずつ入れ替えてみたり、

使用人たちの傘の上下をひっくり返したり。

それだけなら、ほんの気まぐれだ。

退屈しのぎの小悪魔的な茶目っ気に過ぎなかった。

けれど――その範囲が、いつしか屋敷を越え、街へと広がっていった。

看板をすげ替え、店の名前を入れ替えたり、

街角の標識を反対に向けたり。

誰も大きな怪我をしたわけではなかった。

だが、街の人々の間に「またあの貴族の坊っちゃんが……」という冷たい声が増えていったのも事実だった。

そして――決定的な事件が起きた。

冬を目前にした、ある年の秋。

その年は収穫が少なく、街の食糧庫は「冬を越せるかどうか」の瀬戸際にあった。

そんな中、最も多くの備蓄を抱える主食用の大倉庫が、突如として炎に包まれたのだ。

後に判明したことだが、カイン本人は「ただ、ちょっとした悪戯を仕掛けようとしていただけ」だったという。

誰もいない深夜の倉庫に忍び込み、

何か面白いものを見つけて驚かせよう――そんな子供じみた動機。

しかし、暗闇の中で足を取られ、手にしていたランタンを落とした。

乾いた木の床は瞬く間に燃え広がり、あっという間に炎上した。

逃げ出すカインを見た者は多く、

「自ら火を放ち、逃げた悪徳貴族」として処罰は決定的となった。

彼がそれを否定しなかったのも、誤解を深めた一因だった。

――ただ、「あれは本当に……わざとじゃなかったんだ」と、

ぽつりと呟いたという証言だけが残っている。

藤咲フィアナは、その記録を思い返しながら、

ふと、あの“人形”の話を思い出していた。

寂しさに耐えきれず、いたずらをして気を引こうとする――。

そう言っていたカインの言葉が、どこか痛々しく胸に残っていた。

「……やっぱり、あの頃から変わっていなかったのね」

彼の悪戯は、きっと誰かに見てほしかっただけなのだ。

孤独な貴族の少年が、ただ“存在を確かめたかった”という――

それだけの理由で、すべてを失ってしまったのだと思うと、

フィアナの胸の奥が、締めつけられるように痛んだ。




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