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第107話 『人形を調べる』


煤けた壁に沿って、無数の瓶や本、奇妙な薬草が並ぶ。

その中央に古びた机があり、そこへ例の人形が置かれていた。

「さて……どれ、少し見せてもらおうかの」

ローザは椅子に腰を下ろすと、眼鏡のような魔導具を目にかけ、杖の先に青い光を灯す。

「ちょ、ちょっと……優しくしてね?」

人形がぷるぷると震える。

「動くな。魂を視るのは繊細な作業じゃ。……動くと魂が二つに割れても知らんぞ?」

ローザの声に、部屋の温度が一瞬下がる。

「ひ、ひぃっ……!」

人形はすっかり大人しくなった。

ローザは低く呟き始める。

「《視界解放ヴィジョン・オープン》……《魂照射ソウル・リヴィール》」

杖の先から放たれた光が、人形を包む。

ふわりと漂う光粒――その奥に、ぼんやりとした影が浮かび上がる。

それは――小さな少女の姿だった。

泣き腫らした目をしたまま、うっすら笑っている。

ローザが眉をひそめる。

「……ふむ、やはり“ただの妖精のいたずら”ではないようじゃな」

「ど、どういうことなんです?」と一二三先輩が尋ねる。

「この人形の中におるのは、妖精ではなく――“人の魂”じゃ」

「人の……?」

藤咲さんが息をのむ。

「しかも……この魂、完全に死んどらん。

 生者の世界と死者の狭間に取り残されたまま、肉体の代わりにこの人形に宿っとる」

ローザは杖をトントンと机に打ちつけた。

「つまりのう――この娘、“死んだつもりで生きておる”んじゃ」

人形が目をぱちくりさせる。

「え? わ、私……生きてるの? でも、体なんて――」

「ない。じゃが魂の炎は消えておらん。

 ……誰かが意図的に“封じた”形跡がある。しかも――封印魔術の系統が古い。

 これは1000年以上前の術式じゃ」

カインが腕を組み、渋い顔で呟く。

「そんな昔のもんが……まだ残ってるのか」

「ふむ。どうやら、この娘……“トラップの原点”に関わる存在かもしれんの」

「トラップの……原点?」一二三先輩が首を傾げる。

ローザは人形を見下ろしながら、少し笑う。

「この世界の“罠”や“呪具”の概念を最初に作り出した存在――“嘆きの少女”の伝承を聞いたことはあるか?」

カインが小さく頷く。

「確か、古代帝国時代の亡霊の話だったか。裏切られて、館ごと封印された少女の怨念……」

「その怨念が形を変えて、“トラップ”の概念として残った。

 そして、1000年の時を経て……放置されていた館で復活した可能性がある」

ローザは冷たい視線で人形を見つめる。

「お主……まさか、その“元祖”じゃな?」

人形はポカンとした表情を浮かべたあと、震えながら口を開く。

「え? ……私、そんなすごいの?」

ローザはため息をついた。

「すごいというより、迷惑千万じゃのう」

カインが腕を組みながらぼやく。

「やっぱ、浄化した方がよかったかもしれん……」

「お、お待ちなさい! だって私、誰かを傷つけたいわけじゃ――」

その瞬間、机の上に置かれた瓶が**パリン!**と割れた。

中から、黒い煙がゆらりと立ち昇る。

「……おや?」ローザが目を細める。

「やはり“封印”は一つではなかったようじゃ」

煙の中から、別の声が響いた。

『――見つけた。私のうつわを勝手に弄るとは、誰じゃ?』

その声は低く、古く、空気を歪めるような響きを持っていた。

藤咲さんが小さく息をのむ。

「……まさか、これが――」

ローザは杖を構え、唇の端を上げる。

「ふふ……ようやく“本体”が顔を出したようじゃの。

 さて、1000年越しの亡霊退治――久々に腕が鳴るわい」



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