第105話 『人形の行方』
「お疲れ様〜♪ で、どうだった? ワクワクドキドキな体験は?」
のほほんとした声と共に店長が入ってくる。
「ワクワクドキドキなぞせんかったわ! イライラムカムカばっかりだったわ!」
カインは机をドンと叩いて怒鳴る。
「店長! 先に言っといて下さいよ〜。罠ばっかで、あれじゃ魔法の練習どころじゃありません!」
一二三先輩も、両手を広げて抗議する。
「大変でしたが……私はちょっとしたデート気分でしたわ。ただ、これをどうするか困ってますの」
藤咲フィアナは、机の下に置いていた紙袋から“あの人形”をそっと取り出した。
「えぇぇぇぇ!? 持って帰ってきたの!? これは完全に想定外! こんなの置いといたら、コンビニがトラップだらけになっちゃうよ! 悪いけど異世界戻って捨ててきて!」
店長が絶叫する。
「私のために争わないで! カイン君なんて、泣いてくれたのよ!」
人形が急に叫ぶ。
「余計な事を言うなぁぁぁ!」
カインの顔が真っ赤になる。
「でもさ〜……もしこのコンビニがトラップハウス化したら、もう営業できないよ? 潰れるよ? それでもいいの?」
店長は現実的な問題を口にする。
「それは困ります!」
一二三先輩は即答する。
「……でも、またあの洋館に返すのも可哀想ですわ。上げて落とすような真似はしたくありませんし」
藤咲フィアナが小声で言うと――
「だったら、この場所を全力でトラップハウスにするの! フフフ……!」
人形が不敵に笑う。
「どうやってだ? 地道に手作業なら、やらせなければいいだけだ!」
カインは鼻で笑った。
その瞬間――
パァン! 人形が放った魔法の光。
「ぐはっ!?」
カインの頭上からタライが落ちてきた。
「……こんな感じで、すぐにでもコンビニをトラップハウスにできるから。止められないよ?」
人形はクスクスと笑う。
「くっ……卑怯な! やるならカイン君だけにしろ!」
カインが怒鳴ると、店長がすかさず口を挟む。
「そうそう! やるならカイン君だけにしてよ〜」
「なんでこっちに振る! 一二三先輩にしろ!」
「いやいやいや、ここはやっぱりカイン君でしょ〜」
「……仲間とは思えん!」
カインは机に突っ伏した。
「でも、帰らないというのなら……仕方ありませんわね。浄化、しかありませんか」
藤咲フィアナがさらりと告げる。
「くっ……脅すとは卑怯な!」
人形が叫ぶ。
「お前が言うなぁぁぁ!」
カインが即ツッコミする。
「……あの涙は嘘だったの!? 私のために泣いてくれたじゃない! 私を弄んだのねぇぇぇ!」
人形はわめき散らす。
その時――休憩室の扉が勢いよく開いた。
「あれ? なんでみんな休憩室にいるの? 藤咲さんまで?」
ヒナタが顔を出した。
咄嗟に藤咲フィアナは紙袋に人形を押し込む。
「さっき、たまたま寄っただけですの。ヒナタさんは今からバイトですか?」
「うん、今からバイト〜。あっ、時間だしレジ行ってくるね〜。またね〜」
ヒナタは手を振って去っていった。
「……ふぅ〜……」
三人と一体は同時に息を吐いた。
机の上に戻された人形は、小刻みに震えていた。
「どうした?」
一二三先輩が問うと――
「な、なんだあれは! 恐ろしい……帰る! 私、帰る! でもあの館は嫌ぁぁぁ!」
人形が怯え切った声を上げた。
「……ああ、なるほど」
一二三先輩が顎に手を当てて呟く。
「良いこと思いついた。師匠に任せればいいんじゃない?」
「ローザか! それがいい!」
「ローザに押し付けよう!」
カインと一二三先輩は同時に叫んだ。




