表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/104

第11話 『使い込まれた串ってどういう事?』

 深夜のまごころマート。

 異世界から串ひとつで戻ってきたカインは、ヒゲメガネのままバックヤードで店長に詰め寄っていた。

 

「……なあ店長」

「ん?」

 

「“使い込まれた串”って、どういう意味!?」

 

 店長はニッコリと笑って答える。

 

「ああ、それ? 10年以上、唐揚げを刺してきた熟練の串だよ。

 もう味も染みてるし、魂も宿ってる」

 

「いやいやいやいやいや!?」

 

 カインは思わず両手で頭を抱える。

 

「串って、使い回さないでしょ!?

 普通、刺したまま売ってるよね!?」

 

「うん」

 

「なら“使い込まれた串”って意味がわかんないんだけど!?

 何をどうすれば串に魂が宿るの!?」

 

「……店の気合?」

 

「それ、完全に精神論じゃん!!」

 

 怒涛のツッコミの嵐を終えたカインは、さらに詰め寄った。

 

「っていうか、俺、村助けたんだよ!?

 拍手もされて、感謝もされて、ようやくヒーローっぽくなって――」

 

「おつかれ!」

 

「なんで“はい帰ろっか”って即回収なんだよ!?」

 

 バン、と棚を叩いて叫ぶ。

 それでも店長はふんぞり返って、ポケットから綿棒みたいな何かを取り出して耳掃除を始めた。

 

「……」

 

「……」

 

「で、答えてくれる?

 村の危機って、そもそも“俺の元の世界”じゃないってどういうこと?」

 

 静かながら、核心を突くカインの問い。

 だが、店長は――

 

 突然、逆ギレした。

 

「うっさいなあ! いいか!? お前、もとは悪徳貴族だっただろ!?

 村ひとつ助けたくらいでチャラにしようとすんな!」

 

「掘り返すのおかしくない!?」

 

「むしろ感謝してほしいね? “贖罪チャンス”与えられて!」

 

「だからって、拉致みたいに異世界送られて、串ひとつで戦わされて、

 帰ってきたら“おつかれ〜”って冷たい缶コーヒー手渡されて――!」

 

「はいはい、勤務終了〜♪」

 

 店長は腕時計をチラリと見て、タイムカードを指差した。

 

「押したでしょ? じゃ、退勤! ほら、出口出口!」

 

「話の途中!!」

 

「話しながら出ようね〜、夜風気持ちいいぞ〜」

 

 店長にずいずい押され、レジ横まで連行されるカイン。

 さっきまでの“救世主”感は微塵もない。

 

「串は? 串は俺の神器――」

 

「回収済。洗ってまた使う」

 

「やっぱり使い回すの!? 神器ってなんなんだよ!!」

 

 そのまま自動ドアが「ピンポーン」と軽やかに鳴き、

 カインは唐突に夜の街へ押し出された。

 

 外はいつもの、静かなコンビニ前。

 ヒゲメガネはまだ顔にぺったりと貼られたままだった。

 

「……なんなんだよ、マジで」

 

 ぼそっとつぶやきながらヒゲとメガネを外し、ポケットに突っ込む。

 

「助けたのに褒められないし、説明もされないし……

 あの村、そもそもどこなんだよ……?」

 

 もやもやは残ったまま。

 夜風だけが妙に肌寒く、コンビニのネオンだけがいつも通りだった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ