第103話 『カインの過去?』
「ちょっと待ってくれ!!」
カインが突然、藤咲の手を掴んだ。目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「……カイン様? ど、どうしたんですか?」
「お、お主ら……わからんのか! これは……これは、寂しさゆえにイタズラで繋ぎ止めようとした哀れな存在じゃ!」
藤咲はぽかんと口を開け、一二三先輩は少し離れた場所から声を張り上げた。
「お、おいカイン君! まさかその人形に同情してるのか!? あんな罠の数々に散々苦しめられたのに! 俺なんか粉まみれ、水びたし、最後は壁ドンされて鼻打ったんだぞ!」
「……だが、考えてみよ一二三先輩。誰にも相手にされず、忘れ去られて……それでも“イタズラ”という形で繋がろうとしたその健気さ……!」
カインは鼻をすすりながら人形を指差す。
「これは、これは……過去の我と同じではないか……!」
「えっ、過去のカイン様って、そんなに寂しがり屋だったんですか?」藤咲が小首を傾げる。
「う、うるさい! その話はするな! とにかく! 浄化なんて野蛮な真似はやめるのだ!」
人形はカインの言葉に反応するように、小さな声でつぶやいた。
「……ありがとう。誰も私の話を最後まで聞いてくれなかったのに」
部屋の空気が少し柔らかくなった。
しかし藤咲は納得がいかない顔で腕を組む。
「ですが、このまま放っておいたら、また罠を作って迷惑をかけるかもしれませんよ?」
「それならば!」カインは唐揚げ串を掲げ、決意に満ちた表情になる。
「我が責任をもってこの人形を保護する! 以後は“カイン様見習いの従者”として、ちゃんと教育してやる!」
「……はぁ!? カイン君、また妙なのを拾おうとしてないか? 絶対面倒になるやつだぞ!」一二三先輩が頭を抱える。
藤咲も眉をひそめながら小さくため息をついた。
「……仕方ありませんね。ですが責任はすべてカイン様が持ってくださいよ。私は知りませんからね」
人形は小さな手を胸の前で合わせ、ぺこりとお辞儀をした。
「わ、私……がんばって役に立つようにします! もう罠は仕掛けません!」
「よし、それでいい! ……さぁ、これで異世界の調査は完了だ! さっさと帰ってシャワーを浴びるぞ!」
カインは涙を拭いながら高らかに宣言した。
こうして、怪しい洋館の真相は――“寂しがり屋の人形”という肩透かしで幕を閉じたのだった。




