第102話 『人形の間』
階段を登る度に、罠。
落とし穴、タライ、壁から飛び出す煙。まるで遊園地のアトラクション。
カインが舌打ちしながら、ようやく目の前の重厚な扉へと辿り着いた。
「さっさと終わらせて帰ろうぜ。腹も減ったし」
「そうですね……私も早くシャワーを浴びたいですわ」藤咲フィアナは、汗で乱れた前髪を払う。
一二三先輩はというと、罠に何度もかかって顔はススだらけ。もう心が折れたらしく、壁際で体育座りしていた。
「……もう嫌だ。オレはここから動かん」
「開けるぞ!」カインが前に出る。
慎重に取っ手を掴もうとして、やめた。
「……操作して落とし穴でも出たら面倒だ。よし、風魔法でぶち壊す!」
バシュッ! 突風が走り、古びた扉はあっけなく吹き飛んだ。
舞い上がる埃の向こう――そこは広い部屋だった。
真ん中に、椅子がひとつ。
その上に、ぽつんと小さな女の子の人形が座っていた。
「……これか? この人形の仕業か?」カインが眉をひそめる。
「恐らくそうでしょう。怪しい気配がしますわ」藤咲フィアナは慎重に頷く。
「部屋の中だし、燃やすわけにもいかん。藤咲さん、頼んだ」
「解りましたわ! 浄化します!」
フィアナが両手を組み、祈りの言葉を紡ぎ始めた、その時――
「ちょっと待って! ごめんなさい! これには理由があるの!」
人形が喋った。
フィアナの口がポカンと開く。
「……今、喋りましたわよね?」
「今さら謝っても遅い!」カインが剣を抜きかける。
だがフィアナは手を下ろし、じっと人形を見つめた。
「……解りましたわ。お話を聞きましょう」
「おい! 我はさっさと帰りたいんだが! どうせ大した理由もないだろ!」カインは不満げ。
無視して、人形は小さな声で語り始めた。
「私はね、ここに住んでいた女の子のお気に入りの人形だったの。その子はすっごくイタズラ好きで……毎日イタズラの目印に私を置いていたの」
「……毎日イタズラ? 迷惑な話だな」カインがぼそっと突っ込む。
「でもある日、引っ越しで置き去りにされちゃったの。寂しかった……。だけど何年も経ったある日、妖精さんが通りかかって、私を動いて喋れるようにしてくれたの!」
人形の声はだんだん弾んでいく。
「でも、ひとりは寂しいから……その子がしていたイタズラを真似して、色々作っちゃったの……」
「……言ってることがよく解らないし、結局は迷惑ですわね。浄化しましょう」フィアナが再び手を組もうとする。
「ちょ、ちょっと待て!!」
バッとカインが前に立ちはだかった。
目の端に、なぜか涙を浮かべて。
「……置き去りにされたんだろ……ずっと、待ってたんだろ……! 浄化なんて……そんな、可哀想なこと……!」
フィアナと一二三先輩は目を丸くした。
ダンジョンの空気は、不意にしんと静まり返った。




