第10話 『救世主ヒゲメガネ』
戦いは――驚くほど早く終わった。
火を噴き、村を襲っていた大型の魔物は、
気づけば全身に竹串が突き刺さったハリネズミ状態で地面に転がっていた。
ピクリとも動かない。
カインは何が起きたのか自分でもよく分かっていなかった。
「……え、終わった?」
右手には、コンビニの揚げ物コーナーで酷使されまくった竹串数本。
いつの間にか、串が手元から“勝手に飛んで行って”、魔物に命中していた。
(まさか、あの店長の言ってた“神器”って、マジだったのか……?)
村の子供たちが、口をあんぐり開けてこちらを見ている。
「ヒ……ヒゲが動いた……」
「メガネの奥、目がマジだった……」
「串、刺さってた……!」
ざわつく村人たちの間を、ヒゲメガネ姿のカインがゆっくりと歩き出す。
長いコートの裾を翻し、意図的にカツーンと串を地面に突き立てる。
「――フッ、これが庶民の“串術”だ。覚えておけ」
ドヤ顔で振り返るカイン。
口角をわずかに上げたその表情は、どこからどう見ても悪役ムーブだった。
村人たちは、感謝しつつも、ちょっと距離を取りながら手を合わせていた。
「と、とにかく助かった……! ありがとう、謎の……ヒゲの人!」
「名前……教えては、くれませんか?」
「……名乗るほどの者じゃない」
決めゼリフを残し、カインは串をシュッとしまい込もうとして――ポケットがなくてちょっとモタついた。
(……うわ、台無し!!)
ぎこちなく咳払いをひとつ。
そして静かに踵を返そうとしたその瞬間。
「おつかれ!」
――背後からポン、と肩を叩かれた。
振り向くと、そこにはいつの間にか現れていた店長の顔があった。
満面の笑み。片手にはまごころマートの買い物袋。
「いやー、いい働きだったね。じゃ、帰ろっか」
「えっ、えっ、いやちょっと待って!? まだ心の準備が――」
ぐいっと首根っこを掴まれ、そのままズルズルと空間に引きずられるカイン。
「ありがとう、串の人ー!」
「ヒゲの救世主ー!」
「次も頼んだよー!」
村人たちの見送りの声と拍手が背中に降り注ぐ中、
カインはヒゲメガネをつけたまま――再び、まごころマートのバックヤードに戻された。
「……なんだったんだよ、もう」
唐揚げ臭の漂う深夜のコンビニ。
自動ドアの音が、やけに現実に引き戻してくる。
「ね、やっぱり串、強かったでしょ?」
何気なく笑う店長の顔を見て、
カインは思わず頭を抱えた。
「ぜったい、あれって“バグ”だろ……!」