第1話 『レジを打つ』
「カイン・エスカルド、貴様の罪は万死に値する!」
王宮の玉座の間。並ぶ貴族たちの視線は冷たく、ヒロインとその婚約者(=俺の従兄弟)はまるで舞台役者のように、堂々と断罪の言葉を投げつけていた。
そして俺――悪役貴族カインは、
ただひとこと、こう言い残した。
「……庶民の暮らしを、侮っていたのかもしれんな……」
そして首が落ちた――はずだった。
目を覚ました時、俺は制服姿で床に倒れていた。
白と緑の、見慣れぬ異国風の服。額にはなぜか冷たいおしぼり。
「ちょ、あんたマジで寝てたの!? レジ人いないからお願い!」
怒鳴り声。え? 誰?
目の前には、妙に現代的な少女。髪を束ね、名札に「ひなた」と書いてある。
その後ろには、謎の音――「ピッ、ピッ」という機械音。
「急いで! おでん五つと唐揚げ棒ね!」
俺は立ち上がり、カウンターに向かった。
そこには透明な箱の中で、串に刺さった何かが温められており、隣には奇妙な板状の機械。
「お客様……唐揚げ棒を、献上いたします……」
「いや、それ“商品”だから。ちゃんと袋に入れてってば!」
俺は混乱していた。
処刑されたはずの俺が、なぜか見知らぬ世界で、
“唐揚げ棒”なる高温の凶器を手に、接客をしている。
……待て。
これは、もしや――転生?
「……お客様、袋詰めとは……“贈り物仕様”という理解で、よろしいか?」
「いや、普通に“持って帰る用”ね。てか言い方なにそれ貴族かよ」
まさかと思ったが、俺の中に残る記憶は、殆が“前世”のものだ。
侯爵家の嫡男、カイン・エスカルド。
処刑されて当然の悪役貴族。だが、たしかに最後に“願った”のだ。
――次こそは、真っ当に生きてみたい、と。
その結果が、これか。
「……よかろう。貴様の“袋詰め”なる流儀、覚えた。唐揚げ棒、五本。完了である」
「……キャラ濃っ!」
レジは鳴る。「ピッ」という音がするたびに、なぜか魂が震える。
これは……王宮のベルの音に似ている……!
ああ、なるほど……この「レジ」とやらは、この世界の“徴収魔法陣”なのか――
「お会計、六百五十円です」
「ちょ、急に普通!?」
こうして、俺はこの国の“民”としての第一歩を踏み出した。
そして夜、勤務を終えた後。店長から言われた。
「君さ、なんか前世とか思い出してない? 僕もそうなんだよねー、元・賢者?で」
「……は?」
「あと、夜勤は気をつけてね。たまに、裏口から“異界の客”が来るから」
この世界、まともじゃない。
だが――面白くなりそうだ。