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第5話「円卓広間」

 アマルガムの中心地に屹立する灰の聖大樹。


 壁と見紛うほど巨大な幹の内部に設えられた広大な部屋に、六人の灰エルフが集まっていた。


「以上が今回の討伐報告となります」


 その部屋でレアルスは淡々と精隷獣せいれいじゅう討伐の報告を終えた。


 彼らはレアルスを中央に、セレネが左手側、シャルが右手側の位置に立って横一列に並んでいる。


 部屋は端と端の者が互いの表情をなんとか認識できる程度に広大で、その間には存在感のある縦長の大円卓が設置されている。


 ゆえにこの部屋は円卓広間と呼ばれる。


 レアルスたちの正面を北としたとき、その円卓の真北に壮年の男性が一人、東北東に男装の麗人が一人、西北西に眼鏡をかけた温和そうな男性が一人、着座していた。


 エルフらしく全員が見目麗しいものの、真北の位置に座る男性の顔に刻み込まれた皺は彼が生きてきた年月を物語っている。


「ご苦労だったなレアルス。報告にもある通り、昨今は大群や巨大な精隷獣せいれいじゅうの出現が頻発している。お前たちには苦労をかけるかと思うが、平穏のため戦ってくれると助かる」


 壮年の男性はレアルスの報告に労いの言葉を返す。


 彼の名はレガウィア・エルネヴァスといい【灰燼の妖精(コクマー)】の最高司祭を務めている。


 アマルガムおよび灰エルフの在り方を導く、重鎮の一人と言っても過言ではない。


 その言葉にレアルスは左胸に拳を当てながら恭しく目礼で答える。


 それにセレネとシャルも続くと、彼女たちに視線を遣った最高司祭はふと疑問を口にする。


「して、お前たちの隊長ともう一人はどうしたのだ?」


 可能な限り揃って行うべき討伐報告に不在の二人について問われ、シャルとセレネは若干口元を引きつらせる。


 彼女たちの間に立つレアルスは表情を変えずに返答を思考している様子だった。


「まぁこちらも揃って報告を聞けることの方が少ないゆえ、深く詮索するのはよしておこう」


 最高司祭が言ったように、討伐を初めとした様々な報告は本来最高司祭を初めとする五人で執り行われるものなのだ。


 しかし今この円卓広間にいるのは最高司祭たるレガウィア、騎士団の副団長を務める男装の麗人フィオディス・ミアネル、魔導士団の副団長を務める柔和な男性ラズエル・エレアルトの三人だけだ。


 この場にいるべきあと二人、騎士団団長と魔導士団団長は遠征や同盟国との干渉など様々な業務に追われる多忙の身であるため、基本的に討伐報告のような定常の報告会にはまず参加できない。


 その代役として各副団長が基本的に毎回出席しているのだ。


 とはいえこの場にいる最高司祭が暇を持て余しているわけではない。


 彼はこの聖大樹内で数多の業務を行っており、国内の情勢を常に把握して適宜判断を下す役割を担っているのだ。


 各団長が外政を司るとするならば、最高司祭率いる司祭階級の者たちは内政に関わるすべてを受け持っているといっても過言ではない。


「ご配慮ありがとうございます。では今回の報告は以上とさせて——」


 そんな彼の言葉を断ち切るように、円卓広間の木製の大扉が勢いよく開かれた。



「申し訳ありません、遅れました!」



 物音を察知したセレネとシャルがばっと振り返ると、そこに広がる光景に冷や汗を浮かべる。


 レアルスは視線だけ後方の扉の方に向けると、すぐに正面に向き直って小さくため息を吐いた。


 開かれた大扉の向こうには、薄汚れた身なりのアリスとヴァルが立っていたのだ。


 追いかけっこの末、アリスに捕まったヴァルが引きずられてきたということが丸わかりだった。


 そんな彼らを見てレガウィアは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、ラズエルは困ったような苦笑いを浮かべる。


 そしてフィオディスにいたっては堪えきれずに肩を揺らしながらくつくつと笑っていた。


「もう馬鹿なんじゃないのアリちゃん……。こんな格好でお偉いさんたちの前に出るとか正気じゃないでしょ……」

「出席しないことの方が失礼でしょ! ほら、しゃんとして!」


 無理矢理引きずられてきたであろうヴァルが今にも泣き出しそうな表情でぼやくも、アリスはそれを意に返さずに彼の姿勢を正させた。


「……ぷふっ! あっははは! 無理、耐えられない!!」


 アリスたちのやり取りを見て吹き出したのは大笑いを堪えていたフィオディスだった。


 彼女は後頭部で結わえた長い灰髪を揺らしながら、腹部を押さえて大笑いし始めた。


「やっぱおもしろ~、アリスちゃん。そんな格好で円卓広間に来る人いないよ普通!」


 先ほどまでのフィオディスは男装の麗人という言葉が見合うほど厳かな雰囲気を纏っていたが、口を開くと見た目に反して明るく、笑顔がよく似合う女性であった。


 彼女は笑いすぎて目尻に浮かべた涙を指で弾くと、脚を組み直して真正面のラズエルに向き直った。


「そう思わない、ラズエル?」

「あはは……。まぁボクたちは気にしないけど、厳格な人には注意されちゃうかもしれないから気をつけてね、アリスさん」


 フィオディスに水を向けられたラズエルは苦笑を返した後、アリスたちに視線を戻した。


「す、すみません、ラズエルさん……」

「ぷっふふ……! しおらしいアリスちゃん可愛いね~」

「ちょっと、フィオさんはいつまで笑ってるんですか!?」

「ごめんって、最近団長が遠征やらなんやらで事務仕事押しつけられててね~……。書類ばっかり見てたから笑いの沸点低くなってるわ~」

「フィオさんが書類仕事……? 大丈夫ですか、書類読まずに食べてません?」

「なんだと~、姉弟子に向かってそんな口聞いていいのか~? 今じゃ騎士団の副団長だぞ~?」

「昔は文字なんて読んでられるか~~って戦闘訓練ばっかりして——」


 喧しいやり取りが円卓広間に響き渡る。


 そんな彼女たちを見てレガウィアとレアルスはほぼ同時に嘆息し、ラズエルは乾いた笑いを漏らした。


 残るセレネたちはというと、最高司祭を初めとする幹部の前で騒ぐアリスの様子に絶句している。


 幹部たちの前でも物怖じしないのには彼女の性格もあるだろうが、その境遇が深く関わっている。



 アリスには物心がついた頃から両親がいない。


 それどころか赤子の頃に【灼燼しゃくじん灰域はいいき】に捨てられていたらしく、警邏中の騎士団に運良く拾われたのだ。


 灰エルフは土地が貧しいことから生活が苦しく、口減らしのために子供や老人を捨ててしまうということがままある。


 本来であれば孤児院に預けられるところなのだが、彼女の魔法適正が群を抜いて高いことを見抜き、高等な教育を与えられることとなり今に至る。

 

 そのときアリスを拾い教育したのがレアルスの母で、それゆえに彼女とレアルスは幼い頃からともに育ってきた縁がある。


 アリスは高い魔法適性と本人の希望から騎士団へ入隊し、現団長の元で厳しい訓練を受け立派な戦士へと成長した。


 そこで姉弟子としてフィオディスと出会い、切磋琢磨してきたためこれほど気安い仲なのだ。


「ゴホン……。そろそろ良いか、フィオディスよ」

「あ、すみませ~ん。割と久々の妹弟子との再会だったのでつい……」

「も、申し訳ありません、レガウィア様……」


 レガウィアの咳払いによってはっとした二人は姦しい会話を打ち切り、彼に視線を向けた。


 フィオディスは先ほどまでと変わらないような態度であるが、さすがのアリスでも最高司祭であるレガウィアには姉弟子と同じような態度は取れないようであった。


「じゃあアリスちゃんも来たことだし本題に入りましょうか、最高司祭さま?」

「そうだな、改めて呼び出す手間が省けた。だがその前に隊長、副隊長以外は席を外してもらえるか?」


 レガウィアは重々しく頷いた後、アリスとレアルスを除く【燼魔精隊グレイズ】の面々に視線を遣った。

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