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第203話 ドラゴニュート隊の犠牲者

203.ドラゴニュート隊の犠牲者


(新星歴4821年3月7日)


 今年は大勢での桜見物と洒落込んだ。

 はじめは神々と茜、それからミューズスフィア、セリレ、エアナルードと俺の11名で極東の城主ギザブロウにお願いして特等席を用意させた。


 たまには権威とういうものを乱用しても罰は当たらないだろう。

 流石城主の許可を得た者のみ入場可能な場所だ。


 樹齢千年越えの見事な桜に俺たちは酔いしれた。

 その後は温泉を堪能し、皆の疲れが軽減されたようだ。


 もちろん俺はアグアニードと二人で酒を飲みながらゆっくり楽しんだぞ?

 温泉につかりながら飲む冷酒は最高だ。


 そういう事をしないイベントだって新鮮で楽しいのだから。


 まあ茜には物凄く文句言われたので、後日こっそり二人『夕霧亭』に行ったりしたけどな。


 当然バレて、そのあとダラスリニアとエリスラーナ、アルテミリスとしっぽり過ごしたのはいい思い出だ。


 にやりと笑うモンスレアナとアースノートが少し怖かったが……

 まあどこかで穴埋めをするさ。


 コホン。


 そして次の日にはグースワース総勢46名で、同じように貸し切りを行い楽しんだ。

 意外にもこの世界では桜が少ないため、ほとんどの仲間が初めてだったみたいで、涙もろいドラゴニュート達は皆号泣していた。


 アズガイヤなんか「うおお、俺はどうしてライナを連れてこなかっんだー」とか叫んでいたな。


 うん。

 お前もう転移できるんだから、今度二人で行きなさい。

 休みくらいはいつでも許可するぞ。


 ルイーナとミュールスなんかはうっとりと顔を赤らめていてとても可愛かったのだが……

 興奮したリナーリアがまた温泉でやらかして。

 グースワースに帰ってからネルとカナリアにメチャクチャ怒られたっけ。


 全く懲りないねリナーリアは。


 ああ、ナハムザートは後で転移して連れてきたミンとこっそり二人で抜け出して、どうやらいろいろと卒業したらしい。

 最近は新しいミユルの町の家で二人きりにしてやってたのにな……

 まあ純情な二人には幸せになってもらいたいものだ。


 何はともあれ皆で行う行事は本当に楽しいものだ。


※※※※※


(新星歴4821年3月19日)


 「よしお前ら、遊び気分はここまでだ。気合い入れてこの星を守るぞ」


 どうやらミンと一線を越えたナハムザートはますますやる気に燃えているらしく、ドラゴニュート隊の前で檄を飛ばしていた。


 今回は少し遠征し、アグアニードの眷属とともにノッド大陸の探索に行くようだ。

 部隊は今17名。

 4名ずつの3チームと5名1チーム、合わせて4チームを編成し、それぞれアグアニードの眷属と共同戦線を張ることに決まった。


 俺はそのタイミングでナハムザートに声をかけた。


 「ナハムザート、ご苦労様だ。どうだ、もうすぐパパになるのか?」

 「っ!?……な、な、何を……あうっ、そ、そ、その……」


 笑える位動揺する姿に思わず温かい目になってしまう。

 ナハムザートの肩に手を置きささやく。


 「ミン、可愛かっただろ?」

 「~~~くうう……はい……うあ……」


 ああ、本当にコイツは純情だな。

 応援してやりたくなる。


 「ふふっ、すまないな。だが俺はそれを望んでいるぞ?戦うだけじゃないだろ、守るという事はさ」

 「っ!?はい。ミンは、皆は俺が絶対に守ります」

 「ああ、俺は何も心配していないさ。頼りにしている」


 ナハムザートの気配が研ぎ澄まされていく。

 俺は一つだけヒントを与えた。


 「なあ、力ってのはな、想いで激変するんだ。お前らの種族上限は1800だろ?でもな、超えることはできるぞ」

 「なっ!?」

 「信じろ。自分を。まずはそれからだ」


 既に幾つもの戦闘でナハムザートは上限に到達していた。

 確かにかつて俺は各種族ごとに上限を設定した。

 だが本来は届くはずのない高見だ。


 それに到達する強い意志が、そこで止まるわけはない。

 きっとこいつは超えてくる。


 俺はそう信じていた。


※※※※※


 絶望が広がっていた。


 ノッド大陸の最南端の湿地帯は地獄だった。

 ノアーナそっくりのスライムがあり得ない魔力を噴き上げながら、襲い掛かってきた。


 ドラゴニュート第3部隊のイングリール、グスタード、オロド、エイスナの4名は……


 グスタード一人残し全員が引き裂かれ喰われ、命を落としていた。


 右腕を引きちぎられ全身からおびただしい出血をした状態で力を振り絞りグスタードがグースワースへと帰還してきた。


 「ぐうっ、な、ナハムザートさん、皆が…くそっ、俺だけしか……ぐはっ」

 「おい、しっかりしろ、リナーリアがすぐ来てくれる。おいっ、目を閉じるな、おいっ」


 駆け付けたリナーリアが渾身の回復魔法を紡ぐ。

 しかし……弾かれる。


 「なっ!?……どうして?くうっ『オーバーヒール!!』……だめだ、弾かれちゃう」


 念話で呼ばれた俺は慌てて駆け付けグスタードの真核を確認した。

 そこには漆黒による強力な呪いが渦巻いていた。


 リナーリアの回復を研究した後が見られていた。


 「くそおっ!!おおおおっ古代解呪魔法!!……リナーリア、合わせろっ!」

 「!?うん。『オーバーヒール』」


 輝く緑色の魔力がグスタードの失われた右腕を再生していく。

 グスタードの全身の傷が徐々に回復していった。


 「うう……うあ……」


 倒れるリナーリア。

 魔力切れのようだ。

 俺は優しくリナーリアを抱き上げた。


 「ナハムザート」

 「……はい」

 「しばらく出撃は許可しない」

 「はっ」


 奴が動き出した。

 遂に溜めていた力を出し始めてきやがった。


 俺はリナーリアをネルに預けノッド大陸上空へ飛び、ある仕掛けを施してからギルガンギルへと飛んだ。


※※※※※


 「アグはいるか」

 「うん……ごめん、ノアーナ様……俺が、もっと……」


 俺は泣いているアグアニードを抱きしめた。


 「良かった、お前が無事で。……何人だ?犠牲者は……それから俺は何体いたんだ?」

 「っ!?……眷属の被害は12名だよ。……ノアーナ様にそっくりなスライムは……5体いた。存在値は300000を超えていたよ」

 「……そうか。……しばらく休め」

 「……うん」


 「アート、状況は掴んでいるな」

 「ええ、反撃しますわ」

 「いや、待て。俺が今あそこを結界で封じてある」

 「っ!?……いつの間に……」

 「ああ、ここに来る前に展開しておいた。あいつらは俺と同じだ。だから絶対に出られない結界だ」


 「エリス、ダニー、レアナ来てくれ」

 「「はい」」

 「うん」


 「茜」

 「うん。光喜さん。いつでも行けるよ」


 俺は集まった4人を見回す。

 皆目に力がこもっている。

 頼もしい仲間だ。


 「今から世界を確認するぞ。4人でそのまま回ってくれ。ネオ」

 「…うん、僕が先導すればいいんだね」

 「ああ。頼む。たぶんだがスライムは他にはいないはずだが、漆黒を含む魔物が大勢現れるはずだ」

 「「「「っ!?」」」」


 「スライムは俺とアートで片づける」

 「えっ、でも、光喜さん、吸収されるんじゃ……」

 「ああ。だが俺は覚悟を決めた。罠を仕掛けてやる。俺の色に染めてやるさ」

 「……死んだら許さないよ」


 茜の真核から凄まじい魔力があふれ出す。

 俺はそれを吸収して見せた。


 「っ!?な……ねえ、どうやったの?それ……」

 「うん?発想の逆転だ。吸われるという事は吸えるはずだろ?それには魔力の波長を俺の中で変えたんだ。茜の魔力を俺は誰よりも知っている。だから問題ない」


 茜はあきれたような顔をしジト目で俺を見る。


 「ふうっ。流石チートな魔王様だね。なによ、出来るなら最初からやればいいのに」

 「すまないな。今さっきだ。というかぶっつけ本番だ」

 「えっ?嘘……」

 「俺も驚いたよ。……やれば出来るものだな」


 アースノートが心底呆れた顔でため息交じりに口をはさんできた。


 「ノアーナ様、馬鹿でしょ。たまたま上手く行ったからいい様なものの、失敗していたら消滅していたのですわ」


 「「「「「「えっ?」」」」」」


 「そんなに褒めるな」

 「「「「「「褒めてない!!!」」」」」」


 「ははっ、息ぴったりだな。言ったろ?俺は覚悟を決めた。奴らを滅ぼすぞ」


 ついに俺の仲間が犠牲になってしまった。

 もう遊んでいる余裕はない。


 必ず俺が奴を滅ぼす。


 必ずだ。


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