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第18話 光の一味

18.光の一味


(新星歴5023年4月30日)


 アナデゴーラ大陸の南にあるルイルット海峡を越えた先に『神々の住処』と呼ばれるこの星最大のレイノート大陸がある。


 レイノート大陸は中央に『禁断の地』があるものの、肥沃の台地で農業が盛んだ。


 住民はみな神々に感謝をささげながら日々を過ごしていた。


 温暖な気候と食料の心配のないこの大陸には5つの国があり、それぞれが神を奉りながらかつて 極帝の魔王の定めた戒律を遵守し、小さな諍いはあるものの平和裏に暮らしていた。

 そのレイノート大陸の南部に位置するのが光の神を奉るモンテリオン王国である。


 モンテリオン王国は人口およそ70万人。


 敬虔な光教の信者がほとんどを占め、天使族を中心とした多種族国家である。

 因みに天使族の種族特性である翼は、スキル扱い。


 普段の見た目はほぼ人間と同じだ。


 国を治める王は血筋ではなく4年に一度の『王の調』と呼ばれる国民大会で選出される。

 以前の血族支配が戒律に触れたため300年ほど前に改善されたのだ。


『王の調』は基本競い合うもので武力や芸術や知力人気投票の時もあったそうだ。

 内容は、在任中の王が評議会の認可を得たのち光神ルースミールの許可を経て執行されるとのことだ。


 現在の王『ガウウィン・エイン・リーデン』は、武を競う大会で選出された天使族の武闘派の元公爵の当主で意外にも平和主義者なため現在3期目、11年ほど王の座についている。


 因みに存在値は350と言われている。

 世界では類を見ない猛者だ。


 そんな一見平和に見える王国ではあるが、不穏な噂により緊張に包まれていた。


 原因は国の最南端にある『レイトサンクチュアリ宮殿』の主、光神ルースミールにあった。


 何でも、20年以上かけて行った儀式が失敗に終わり、天使族に対し激怒していると、城下町ではまことしやかにささやかれていた。


※※※※※


 「ダルテン・ブリントル。貴方の話はつまらないのだけれど。せっかくのお茶に招待したのに先ほどからうずくまってばかりで人の話も聞きやしない。いったいどういうおつもりかしら?」


 這いつくばれ!と強制の魔法で縛っている神その本人が、そんなことを言い出した。


 光神ルースミール。


 白く輝く腰まで伸びる美しい髪をサイドでまとめ、上品に編み込んだ上部はまるで芸術品のよう。

 さらりと風になびくおくれ毛が、色香を際立たせる。


 切れ長で大きい目には神聖とされる青色をまとった銀眼が輝いている。


 高貴さを表すかのような整った鼻筋に、まるで禁断の果実のような魅惑的な唇が、計算されつくしたかのような絶妙なバランスで配置されている。


 手足はすらりと伸び、胸部は背徳的な質感を保ちながらも清らかさも同居するかの如く、均整がとれていて、細い腰は庇護欲を湧きたてさせる。


 その体は神話級の装飾品に彩られた聖なる法衣に包まれている。

 つまり絶世の美女だ。


 存在値は1700を超えている。

 さすがは神の1柱だ。


 そんな彼女が、ここレイトサンクチュアリ宮殿の中庭にあるガゼボにいた。

 季節の花が咲き乱れ、美しい調和のとれた至高である庭園はその様相を変化させていた。


 緊張の原因が、いつにもまして傍若無人に荒ぶっているからだ。


 「まったく。優秀だからとお使いを頼んでみたものの、言われたことすら満足にできないなんて。愚かにも程がありません事?」


 熱い紅茶の注がれた茶器を、おもむろに投げつける。


 「っ!」


 跪かされ、先ほどから嫌がらせを受け続けているダルテン・ブリントルは、建国より続く元侯爵家『ブリントル家』の当主で、現在王国第一騎士団の団長を務めている。


 武勇に長け、鍛え抜かれた体躯は随一で『金剛不落のダルテン』の二つ名保持者だ。


 存在値は天使族ほぼ最強で500を超えており、歴史上でも稀にみる才能の持ち主だ。

 原初の天使族の直系であり聖魔力が高く、歴代の王からの信頼も厚い。


 かつて王国を揺るがした魔物の大発生事件での武勲により、王国内に3人しかいない称号持ちの英雄でもある。


 2mを超える立派な体躯に、金の混ざった茶色の頭髪は短く整えられており、意志の強そうな赤みを帯びた紫色の瞳は見る者を魅了する。

 容姿の優れた天使族の中でも相当な美丈夫だ。


 神と謁見するためにあしらわれた正装に身を包んでいる。


 だが人の世の功績などいくら積んだところで、絶対者である神には逆らえない。


 ルースミールは跪かされ耐えているダルテンの様子を、面白くもなさそうに冷めた目で見ながら、先ほどからずっとこんな調子で何度も茶器を投げつけたり、足蹴にしたり、ぐちぐちと嫌味を言い続けているのだ。


 「恐れながら、ルースミール様。それはあまりにもグッ!?…」


 見ていられないと第一騎士団副団長のエリル・ディービッドが進言しようとした刹那、神の眷属第2席であり勇者の称号を持つ、シルビー・レアンの右足がエリルの腹部をえぐるように突き刺さった。


 「誰が発言を許可したのかしら?ねえエリル。はあっ、これだから戦うことしか能のない下賤な天使族は美しくないのよねえ。見栄えはよくても、性根が腐りきっているからなのかしら?…そんな種族、必要かしら?」


 ルースミールは手にした扇子のようなものを閉じ、唇をわずかに吊り上げ、思わず背筋が凍り付くような、ぞっとする声で囁いた。


 「っ!大変申し訳ございません!すべての罪はこのダルテンにございます。どうかっ、どうかっ、此度の失態、わが命をもってご容赦いただけないでしょうか?」


 堪らずに、跪いているダルテンは、本能的な怖気に対しとっさに口を開いた。

 跪かされているものの、何とか体は動く。


 どうにかエリルをかばうように体の位置を入れ替えた。


 自分の命はもうないだろう。

 先の失態により、この場に呼ばれた時点で覚悟を決めていた。


 そもそも今回の任務は送還時の警備が主な仕事で、一番重要な儀式の間には、彼ら天使族は立ち入りすら許されていないのだ。


 一番の責は、眷属第3席のルリースフェルトにあることは明白だ。

 つまり、これはただ『とばっちり』を受けているだけなのだ。


 当然光神ルースミールも承知している。

 ならば自分一人の命で釣り合うのではないか?と考えていたのだが。


 しかし、このままエリルまで不敬を買ってしまえば、天使族すべてが滅ぼされてしまう。それだけは避けなければならない。


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