98.ティアラ
僕達は食堂でランチを楽しんでいた。話題は勿論今年から始まる実践授業のことだ。
ナディアとメルヴィンも班が決まったらしく、いつもと違うメンバーでどれだけ討伐できるかと不安そうだ。特に二人はどう足掻いても前衛だから心配だろう。
僕らも魔法使い五人という物凄いバランスの悪いグループだから心配だ。
「いつもつい安心しちまうけど、シロがいる感覚のまま森を進むとかなり危険だからな」
メルヴィンがシロを撫でながら言う。シロはお昼ご飯のお肉を食べながら誇らしげに尻尾を振っている。
シロは僕らでは倒せなそうな魔物の匂いを見つけると教えてくれるから、普段の冒険では簡単に安全確保ができるんだ。
これは実践授業ではシロの能力は封印かな。だって勉強にならない。
シロだけじゃなくモモとクリアも大人しくしていてもらおう。アオは必要になるのは緊急の時だから、アオにだけお仕事をお願いしよう。
実践授業は弱い魔物の討伐から始まるから、あんまり必要にはならないけどね。
僕達がいつも通り和気あいあいと談笑していると、席に近づいてくる影があった。
グレイスの妹だ。なんの用だろう?
「グレイス、こんな所で食事をとっているの?やっぱり『まじない師』には隅っこの席がお似合いよね」
「ティアラ、私はいいけど、皆に挨拶ぐらいしてください。上級生に対して失礼です」
思ったよりずっと強烈な性格の子だった。わざわざグレイスに絡みに来たのか?何のために?
「ふん、嫌よ。テイマーなんかに挨拶して何になるの?お母様が怒るわよ。私は特別なんだから」
何やら色々勘違いしてそうな子だなと思う。グレイスが申し訳なさそうに僕を見た。なんだかここまで来ると怒る気にもなれないから大丈夫だ。
クリアは少しムッとしたのだろう、飛び上がってティアラちゃんの周りを旋回しだした。
ティアラちゃんは怯えている。生まれたてとはいえ鳥にしては大きい猛禽類だからな。怖いのだろう。
「な、何よ、やっぱりテイマーって最低ね。品がないわ」
クリアはその言葉に大きく鳴いて爪を構える。ティアラちゃんは後ずさった。
「クリア、そろそろやめてあげて」
僕が言うと、クリアは素直に戻ってくる。ふんっと鼻を鳴らしていた。
「それで何しに来たんです?お友達のところに戻らなくていいのですか?」
グレイスが言うとティアラちゃんはクリアと睨み合いながら話し出した。
「今日は授業が終わったらすぐ帰るから迎えに来てよね。ついでに街を案内してちょうだい」
「今日は先約があります。案内ならお友達にしてもらってください」
グレイスも意外にはっきり断るんだな。いつも遠回しな言い方をする方なのに。ティアラちゃんにはそれだと伝わらないのかな。
ティアラちゃんはムッとした顔をして何やら反論しようとしたが、クリアが鳴くと逃げるように去っていった。
残された僕らはグレイスに同情した。これだと心配になるのも分かる。友達ができたようだけど、上手くやっていけるんだろうか。
「ごめんなさい、エリス。ティアラは魔物が大嫌いなので、テイマーを特に嫌っているんです」
本当に対照的な双子だな。僕は気にしてないよと言うと、落ち込んだ様子のグレイスを宥める。
メルヴィンもテディーも強烈過ぎて腹は立たなかったようで、ただティアラちゃんのことを心配していた。
「なんかかまってちゃんって感じだったわね。あそこまでじゃなくてもうちの孤児院にも居るわよ、ああいう子。孤児院だと問答無用でお説教だけどね」
たくさんの子供に囲まれて育ったナディアは完全にお母さん目線だ。
グレイスは皆が気にしていないので安心したようだ。
モモがグレイスの膝の上に飛び乗って体を擦り寄せた。グレイスは笑ってモモを撫でている。
「みんな、ありがとうございます。ジョブ至上主義なのを除けば甘えたがりなだけでそう悪い子では無いはずなのですが、そのジョブ至上主義が問題で……早く時代遅れだと気づいてくれると良いのですが……」
グレイスはため息をついてティアラちゃんの今後を憂いていた。
現実を知って矯正されるといいんだけどね。
「グレイス、辛くなったらいつでも孤児院に避難してきていいからね。おもてなしは出来ないけど、賑やかで小さな悩みは忘れられるわよ」
ナディアはグレイスのことが心配になったらしい。確かにあの妹さんとそれを育てたお母さんと一緒にいるのは辛いことも多いだろう。
グレイスは目に涙を浮かべてお礼を言っていた。
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