93.新事実
食堂に着くと、僕はやっと椅子の上に下ろしてもらえた。
おじいさん達も朝食はまだらしい。みんなで朝食を食べながら和やかに談笑する。
おじいさん達はおよそ一年半の間、隣国の海沿いの街にバカンスに行っていたらしい。
この国には海がないから、一度行ってみたかったそうだ。
お父さんに領主の座は譲ったし、のんびりと旅行がしたかったらしい。
「早々に領主の座を譲られて逃げられた息子の気持ちも考えて欲しかったですね。大変だったんですよ、なにせいきなりの領主交代でしたから」
お父さんが珍しく怒っている。おじいさんは何処吹く風だ。
「ちゃんと引き継ぎはしただろう。元々補佐をしていたのだから仕事は把握していただろうし、何が問題だ」
お父さんが苦いものを噛んだ顔をしていた。実際何とかなったし言い返せないんだろう。ただ領主の座を譲られて早々、突然バカンスに行ったのが許せなかっただけなのかも知れない。
「それにしてもパスカル殿に聞いたぞ。お前はなんでエリスの母親がルースだと知っていたんだ」
突然お母さんの話が出てきて僕は困惑した。
「お爺さんと父さんが話しているのを聞いたんですよ。バタバタしていたから何かあったのかと思って」
「ああ、ルースが子を産んだ時は大騒ぎだったからな。聞かれていたとは思わなかった。お前達、エリスの母親の事は絶対外にバラすんじゃないぞ」
おじいさんがみんなを見回して言う。みんな何か感じたのか神妙に頷いていた。
お父さんがバツの悪そうな顔をしている。そんな重大事項だとは思っていなかったんだろう。
「しかし、迅速にエリスを養子にしたのは英断だったな。本当はデリックが養子にして育てたかったんだろうが、あいつは遠征が多いからな。うちの方がよかろうて」
デリックおじさんが僕を養子に?そこまで僕のことを考えていてくれたのかな。
「デリックにとっては惚れた女の忘れ形見だからな、まあ盛大に振られたが。エリスはルースによく似ているからな」
ちょっと待ってほしい。僕はビックリして言葉が出なかった。
デリックおじさんはお母さんのことが好きだったの?
盛大に振られたって何があったんだろう。
僕が口を開けておじいさんを見つめていると、おじいさんは豪快に笑い出した。
「なんだ、知らなかったか。デリックはルースに告白して、兄としか思えないと振られたんだよ。当時は何度もデリックのヤケ酒に付き合わされたな」
デリックおじさんが僕に優しいのはそういう理由だったのか。
僕は新事実にちょっとデリックおじさんが可哀そうになった。
お母さん、デリックおじさんの何がダメだったのかな……いい人なのにな。
兄としか思えないって、兄妹弟子みたいな関係だったからかな?
恋愛のことはよく分からないけど、デリックおじさんは今でもお母さんのことが好きなんだろうか?
「父さん、それを笑い話にするのはどうかと思いますが……」
「もう何年も前の話だ。時効だろうが。デリックだって吹っ切れてるさ」
おじいさんはデリックおじさんと仲がいいんだな。
確かに性格的に気が合いそうだ。
「そう言えば、エリスは剣を使うのか?」
「剣は使えないです」
僕は魔法ばかりだ。剣も使ってみたいけど、やった事が無い。
「そうか、確かデリックが昔ルースの使ってた剣を持ってたはずだから、エリスに丁度いいかと思ったんだがな」
お母さんの剣!僕はちょっと興味があった。今度おじさんに聞いてみよう。
「もし剣を始めるなら私が教えてやるぞ、他に教わるならヴァージルでもデリックでもいいだろう、今度デリックに聞いてみろ」
僕は頷いた。楽しみだな。どんな剣だろう。
朝食が終わるとおじいさんが沢山のお土産を開け始めた。
お母さんは綺麗な布を貰って嬉しそうだ。
兄さんは隣国の音楽が記録されたディスクを貰っていた。
アオが興味深そうに兄さんにすり寄っていた。ふたりとも音楽が好きだからな。
隣国は港があるだけあって珍しい物が多いんだそうだ。
僕も異国情緒あふれる小物をいくつか貰ってテンションが上がった。
特に筆記用具は学校でも使えるし、カッコイイから気に入った。
クリアが綺麗な模様の入った焼き物を気に入ったようで、餌入れに欲しいと言い出した。
おじいさんに話すと、幻鳥は見る目があるなと笑ってクリアに焼き物をくれた。
ついでにモモとシロとアオにも綺麗なお皿をくれた。
今度から食事が楽しくなりそうだ。
おじいさんとおばあさんの土産話を聞きながらお土産を開けるのはとても楽しくて、時間が過ぎるのを忘れてしまった。
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