91.ジョブ至上主義
「それにしても、ジョブ至上主義なんて久々に聞いたぜ。まだ居るんだなそんな人」
メルヴィンが言うとグレイスは頷いた。
「母は、父より少し位の高い貴族家の出身で、政略結婚だったんです。昔からある上位貴族家にはまだその風習が残っていますから、そのせいかと。父は母と結婚したことで始められた事業で忙しくて、あまり家に居ないので、頑固な妹の認識を正すことが出来なかったんです」
グレイスは転移ポータル通学だ。転移ポータルの定期券を使って実家から学園に通っている。お金持ちの貴族ならではの通学方法だ。
お父さんとお兄さんのいない家でジョブ至上主義のお母さんと妹に囲まれて、グレイスは何を思っていたんだろう。これまでのグレイスの態度や発言を見ていればなんだか想像がついた。きっと寂しかったし悲しかっただろう。
グレイスが破天荒なおばあちゃんに憧れていたのも、溜め込んでいた何かがあったからだろう。
「私は妹に友達ができるかも心配で……。みんなも言うように古臭い考えですから、妹はホワイトクラスだったんですが、クラスで孤立してしまわないか……」
確かにそうだ、ジョブ至上主義の人と友達になりたい人は少ないだろう。学園は完全実力主義だ。ジョブ至上主義とは対極にある。
誰もジョブのせいで努力を否定されたくない。
みんなは頭を悩ませた。
「でも妹さんはこれまで家っていう狭い世界でだけ生きてきたわけでしょ?学園に入ったら嫌でも現実を見るし、そうしたら何か変わるんじゃない?」
テディーの言うことは最もだ。一度現実を知ったら妹さんだって変わるだろう。お父さんの言ったことの意味を理解すると思う。
「そうでしょうか?だったらいいのですが……甘やかされて育った子ですから現実を知った時に、どうなってしまうか分からなくて心配なんです」
グレイスは優しいな。確かに六年間通う学園でクラスに友達ができないのは大変かもしれないけど、きっとどこかで何とかなるだろう。
クラスにだって優しい人はいるだろうし、妹さんが意固地になってジョブ至上主義を貫かない限りは大丈夫だと思うけどな。
それとも、心配になってしまうような性格なんだろうか。
「母と父も最近はその事で喧嘩ばかりで……もうどうしたらいいのか」
そうか、グレイスは家族が壊れてしまわないか心配なんだな。途方に暮れた顔をしているグレイスに、みんなかける言葉がなかった。
「すみません、最後は愚痴になってしまいました。ティアラがみんなに絡んできたら無視して構わないので、迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
僕らはわかったと言ってとりあえず話を終わらせた。でもやっぱりグレイスが心配だ。
モモもグレイスが心配なのか、グレイスの膝の上に飛び乗る。
グレイスはモモを撫でて嬉しそうだ。
その後はみんなでゆっくりお茶を楽しんで解散になった。
家に帰ると、何やら慌ただしかった。
メイドさん達が部屋を片付けているみたいだ。
不思議に思っていると、お母さんに明日おじいさん達が帰ってくるのだと教えてもらった。
急な連絡だったのでバタバタしているようだ。
帰ってくるのはもう少し先だと思っていたから驚いた。
でも明日は予定も無いし、帰って来るのなら楽しみだ。
受け入れて貰えるかちょっと緊張する。
今日グレイスに家族の相談をされたばかりだから、余計にそう思うのかもしれない。
僕は夕食の席でおじいさん達の事を聞いた。
おじいさん達は僕の事を知っているんだろうか?
「一応手紙で報告してあるよ。大魔女様の弟子を養子にしたと言ったら、でかしたと言われたから心配しなくても大丈夫だ」
お父さんが笑って言う。
良かった。少なくとも嫌われてはいないみたいだ。
おばあちゃん、明日はまた家族が増えるよ。
おばあちゃんとおじいさん達はどんな関係だったんだろう?
王城から追放されたのを匿ってもらったんだよね。だったらきっといい人だね。
その日の夢はポメラニアンが家に来た日の夢だった。
子犬って可愛いな。シロにもいつかお嫁さんが出来るといいな。
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