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9.ブラックベア

 領主様のお屋敷で暮らすようになって数日。僕は充実した毎日を過ごしていた。

 奥様はよく僕をお茶に誘ってくれるし、パーシーさんは勉強を見てくれる。

 僕は毎日回復薬を作ってはパスカルさんの元に納品していた。僕の作った回復薬は主に冒険者さんに人気らしい。

 冒険者と聞いて前の自分がザワついたような気がした。僕もちょっと興味がある。今度詳しく聞いてみようと思う。

 

 今日はおばあちゃんの家に一度帰ろうと思っていた。少し掃除をしなくては、放っておいたらすぐに荒れてしまうだろう。

 僕はシロとアオをつれて森に向かった。

 森の中の道しるべに従っておばあちゃんの家に帰る。久しぶりでなんだか涙が出そうになった。

 

 僕は少し掃除をする。考えて、家全体に状態保存の魔法をかけることにした。こうしておけば傷まずに済むだろう。家は人が住まなくなるとすぐに駄目になると前の僕の記憶にあった。

 

 アオは浄化の魔法を使って手伝ってくれる。シロは風の魔法で埃を吹き飛ばしてくれた。

 二匹とも魔法の練度が高いのはレア種だからなのだろうか。おばあちゃんが引き寄せてくれた縁は、とても優秀な子達を僕のパートナーにしてくれたようだ。

 

 

 

 掃除も終わり状態保存の魔法もかけ終わった頃、家の外からなんだか不穏な気配を感じた。魔物だ。

 その時僕は気づいてしまった。おばあちゃんが定期的にかけ直していた魔物避けの魔法は、もう効果を失っているんじゃないだろうか。

 僕は杖を手に持って、家にシールドを張った。シールドを張ることで魔物に気づかれてしまうだろうが、仕方ない。

 

 外を覗き込むと、そこに居たのは大きなブラックベアだった。

『あいつ、僕を襲ったブラックベアだ』

 よりにもよって執念深くて強いベア種に気づかれてしまった。

 僕らはブラックベアがいなくなるまで、シールドの中に閉じこもるしか無くなった。

 戦っても僕じゃおそらく勝てない。ベア種を魔法だけで倒すのは難しいんだ。おばあちゃんなら一撃で首を落としていたけど、あれが出来るのは大魔女だったおばあちゃんだけだ。僕には魔法を過信して前に出るなと言っていた。

 

 ブラックベアはシールドを壊そうと必死だ。僕は二重にシールドを張った。

 もう何時間たっただろう。ブラックベアは全く諦めてくれない。

「お腹すいたな……」

 比較的食事を抜いても問題ないアオ達が心配してくれる。

『大丈夫?』

『きっとすぐに助けが来てくれるよ』

 時刻はもう夕方だ。屋敷を出る時に行先は伝えてある。きっと様子を見に来てくれるだろう。

 

 でも、様子を見に来て逆にブラックベアに襲われてしまわないだろうか。それだけが心配だった。

 日も完全に落ちた頃、明かりが家に近づいてくるのが見えた。

『助けが来たよ!』

 アオが飛び跳ねて教えてくる。ブラックベアはまだ明かりに気づいていないようだ。

 

 僕は大きな声を出した。

「ブラックベアがいる!気をつけて!」

 明かりが揺れて、伝わったのがわかる。

 来たのは武装した領主様と、何人かの領主様に仕える騎士だった。

 ブラックベアは新たな獲物に気がついたようで、咆哮を上げて飛びかかった。

 僕は杖を構えて魔法陣を描く。土の魔法でブラックベアの足元に穴を作る。バランスを崩したブラックベアは領主様によって討伐された。首の急所を一突きにしていて、領主様の剣の腕前がすごいのが分かる。

 

「エリスくん!無事か!?」

 僕は家の扉を開け外に出た。領主様の顔を見たら安心してしまって涙が出た。泣いている僕を領主様は抱きしめてくれた。

「よかった……!怖かったな、よく頑張った」

 僕はそのまま領主様に抱えられて山を下りた。

 

 

 

 屋敷に帰ると奥様が泣いていた。僕を見ると走ってきて抱きしめてくれる。その尋常でない様子にとてつもなく心配されていたことを知った。

 僕の行動が軽はずみだったせいだ。森の中では常に気を抜いては行けないと教えられていたのに。

 僕は奥様に謝った。奥様は泣きながら首を横に振る。

 

 後でパーシーさんが教えてくれた。死んでしまった弟さんが、生きていたら僕と同い年なのだそうだ。奥様はきっと僕とその子を重ねているんだろう。パーシーさんにも無事でよかったと頭を撫でられた。

 

 僕は心配して探してくれる人がいることを嬉しく思った。ずっとおばあちゃんと二人きりだったから。

 これもきっとおばあちゃんの運んでくれた縁だから、大切にしようと思う。

 

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