88.帰宅
転移ポータルで冒険者ギルドへ戻ると、僕らは特別買取をお願いした。
特別買取はなにか珍しい高価なものを売る時に使う制度だ。
人前で高額な物を売ってトラブルにならないようにするために、別室を使わせてもらえる制度である。
個室に通された僕らはエルフの里で手に入れた魔物、植物や鉱石を床の上に並べた。
「もしかして、エルフの森に行ったのですか!?」
買取をしてくれるお姉さんが驚いて聞いてくる。
頷くとなんて危ないことをと言われたので、誤解を解くために族長に招かれたのだと言う。決して勝手に入った訳では無い。
「エルフの族長と知り合いなのですか!?凄いですね」
お姉さんは余計に驚いたようだった。エルフの森への侵入許可は滅多に下りるものではないらしい。年に数人は勝手に侵入したために捕まって送り返されてくるそうだ。
大量の珍しい素材を前に、お姉さんは嬉々として鑑定している。テディーもそうだけど鑑定士の人はみんな楽しそうに鑑定するよね。
「カラフルの皆さんはいつも価値の高いものや見つけづらい物をピンポイントで集めてきてくれますから、とても助かってますよ」
お姉さんの言葉にテディーがドヤ顔をしている。ほんと、鑑定士のジョブ持ちが冒険者に人気の無いのはどうしてなんだろうね。こんなに稼げるのに。
でも仲のいいパーティーじゃないと報酬の配分で揉めそうだな。テディーは器が大きいから均等でいいと言ってくれてるけど、ここまで貢献してたら大体は不満が出るだろう。僕らもあまりに高額なものはそのままテディーの取り分にするのがいいかもしれない。あとで皆で相談しよう。
買取は過去最高額だった。とても一日で稼いだとは思えない金額に僕達は戦慄した。唯一金額予想ができていたテディーがまたドヤ顔をしている。
「これは誘ってくれた族長に感謝しないとな」
メルヴィンが配分した金額を慎重にバッグにしまいながら言う。
「テディーもありがとう。おかげでどんどんお金が貯まるわ」
僕らは少し話し合って、一番価値の高かった物の売上を丸々テディーのものにすることにした。それでも結構な額が僕らの懐に入る。
「パーティーなんだから気にしなくていいのに、みんなありがとう」
テディーがなんだかむず痒そうにしていた。
僕らはテディーにとても感謝しているんだ。ナディアは特に切実な理由で冒険者をやっているからよけいだろう。
その日はお土産を家族に渡すため、みんな早く家に帰ることにした。
皆を家まで送ってから屋敷に帰ると、お母さんが出迎えてくれた。
エルフの里の布地を渡すとお母さんはとても嬉しそうに何を作ろうかと考えていた。
キッチンに行くとシェフが居たため、夕食に出して欲しいとソーセージやベーコンを渡す。シェフはエルフの里の加工品に興味津々だった。箱は綺麗な木の箱だったため、中身だけ取り出してお母さんに渡すことにする。
リビングに戻ると、家族みんな揃っていた。お茶を飲みながらエルフの里の土産話をする。
兄さんが羨ましいとしきりに言っていた。音楽や踊りが好きな兄さんは、エルフの楽器や踊りを見てみたかったらしい。今度行った時に映像を撮らせてもらおうかな。
でもアクロバティックすぎて兄さんには真似出来ないと思うんだ。
そう言うと、兄さんはエルフの身体能力には勝てないからなと残念そうにしていた。
次のブライトンさんとマリリンおばさんの魔法講座に呼ばれたことを話すと、なんとお父さんも若い頃行ったことがあったらしい。その時はまだ始めたばかりで受講する人数も少なかったみたいだけど、すごく勉強になったと教えてくれた。
「そういえば、エリス。俺の父さんと母さんが今度この屋敷に戻ってくるから、戻ってきたら紹介するな」
お父さんのお父さんということは先代領主だ。僕にとってはおじいさんということになるのかな?
何でもおじいさん達は領主の座をお父さんに明け渡した後、長めのバカンスに行っていたらしい。楽しそうだな。
春休み中には戻ってくるというからとても楽しみだ。おばあちゃんの話も聞けるかもしれない。
僕はベッドに横になるとエルフの里でのことを振り返る。おばあちゃん、七賢者の人達はみんないい人だね。おばあちゃんの事を沢山教えてくれたよ。早く他の七賢者の人にも会いたいな。
その日の夢はお祭りで盆踊りを踊っている夢だった。
この踊りなら僕にもできそうだ。




