72.生まれた場所
数日後デリックおじさんがエルフの里から帰ってきた。その頃にはジュダ君のお母さんもだいぶ元気になって、もうすぐ家に帰れる程になっていた。
「おじさん!」
僕はおじさんを見ると駆け寄った。おじさんは僕を見ると疲れた顔で頭を搔いた。
「おかえりなさい、どうしたの?おじさん」
「んー、あー」
こんな歯切れの悪いおじさんは初めてだ、なにか悪いことがあったのではないかと不安になる。
「何かあったの?」
「いや、違うんだ。ただなあ……エルフの族長がなぁ……お前に会いたいと言い出してな……」
僕は口を開けたまま呆然としてしまった。何故エルフの族長が僕に会いたがるんだろう。おばあちゃんの弟子だからかな?
「お前は覚えてないだろうが、エルフの里で生まれてるんだよ……ルースと族長が仲が良くてな……まあ、色々とあって」
僕は驚いた。自分がエルフの里で生まれただなんて信じられなかった。僕はエルフの血を引いているのだろうか。
「僕、エルフなの?」
「ん?違うぞ?お前は純粋な人間だ。エルフの血を引いている訳では無い。ただ、出産の時にルースがエルフの里に居ただけだ」
なるほど、遊びに行っていたのかな。急な出産だったのかもしれない。
「それで族長がお前に会いたいから連れてこいと言うんだ。一緒に来てくれるか?」
僕はワクワクして頷いた。族長がお母さんの友達なら怖いエルフではないのだろう。エルフの里に行けるんだ。断る理由なんてない。
「学校が休みの日でいいからな、一泊二日の小旅行だと思ってくれ」
おじさんは楽しそうな僕にホッとした様子だった。
「族長は良い奴なんだが、森での生活が暇なのか人をからかい倒して遊ぶ悪癖がある。何を言われても気にするなよ」
面白い人なのかな?会うのが楽しみだ。
「毒の件はどうなったの?」
僕がおじさんに聞くと、おじさんは普通に答えてくれた。
「ブライトン・ワイクルって知ってるか?七賢者のうちの一人で、『魔法使い』と『魔女』を保護して、弟子の育成に力を入れている人なんだけど……あいつに任せてきた」
彼は有名人だ、知らないはずがない。昔は『魔法使い』と『魔女』のジョブを持つものは、判明し次第すぐに王宮に強制連行され兵器として育成されてきた。それを変えたのが彼だ。王宮に不当に捕らわれていた『魔法使い』と『魔女』のジョブを持つものを解放し、魔法使いの人権を守る活動をしている。王家は彼らの力を恐れて手が出せなくなった。
民衆の支持を考えて、強制的に産まれたばかりの『魔女』と『魔法使い』を集めることももうできない。飼い犬に手を噛まれた形だ。そもそも兵器としてではなく、人としてまともな扱いをしていればこんな事にはならなかったのだから、自業自得だと思う。
彼と弟子達が動いているなら大丈夫かな。きっと毒の製造者がすぐ見つかるだろう。
僕はエルフの里に行く日を決めると、指折り数えてその日を待った。エルフの族長さんから、お母さんの話が色々聞けるかもしれない。僕はとても楽しみだった。僕がお母さんの子供であることを秘密にしなければならない理由を、エルフの族長さんは知っているんだろうか。
きっと教えてはくれないだろうけど、ヒントくらいはもらえるかもしれない。自分の出生の秘密を探る旅だと思えば、よりワクワクした。
ねえ、おばあちゃん。僕はエルフの里にいくよ。
僕がエルフの里で生まれたなんて知らなかった。お母さんとエルフの族長さんが仲が良かったってことも。僕は知らないことだらけで不安になることもあるけど、少しずつ知っていくのは楽しいよ。
その日の夢は妹が生まれた日の夢だった。僕もこんな風に祝福されて生まれてきたんだろうか。そうだったらいいな。
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