57.陣取り合戦
先輩達が競技場に現れると、僕達はガラス越しに試合にかじりついた。初戦はホワイトとの試合だ。試合の最初では危なげなく真ん中を取ることが出来た。練習の時のキューブとは少し違い、キューブの真ん中に三十と数字が表示され、一秒ごとに減ってゆく。
キューブの色が変わってから三十秒は誰が触れても色が変わらないからそれを示しているんだろう。
その間に先輩達は態勢を立て直す。三つのキューブを守りながら相手のキューブも取りに行かなければならない。相手は真ん中を放置して隅のキューブを狙うことにしたようだ。自陣のキューブは守らなければならない方向が限られるため僕達には嬉しいことだ。だが、試合が進むにつれてブラックはホワイトを撃ち落とせなくなってゆく。ホワイトがメンバーを変えてきたようだ。結果隅のキューブはホワイトに取られてしまった。しかしブラックも負けていない。こちらも隅のキューブを取り、この回はブラックが三つのキューブを獲得した。
休憩を挟んで二度目も、最初に真ん中を獲得したのは黒だった。速さではこちらが勝っている。この回のホワイトは防御より攻撃を取る事にしたらしい。初手で真ん中を取れないと悟ったんだろう。ブラックもそれを見て守りを固くする。結果、数回ホワイトに奪われては奪い返してブラックが三つのキューブを取って終わった。
最後のターン、コレで四つ以上のキューブを取らなければホワイトは勝てなくなった。後は油断しなければ大丈夫だ。危なげない試合でブラックは勝利することが出来た。これで次にイエローが勝てばイエローとブラックの優勝争いだ。
戻ってきた先輩達を僕達は囲んだ。本当はそっとしておいてあげるのが良いんだろうけど、優勝が見えてきて我慢できなかった。汗だくの先輩達に飲み物を渡して感想を伝える。はしゃぐ僕達に先輩達はしょうがないなというように笑った。
ガラスの向こう側ではイエロー対レッドの試合が始まっていた。先輩達は次の試合のために真剣にイエローを見ている。フランク先輩が小さく呟きながら作戦を考えていた。
結果はやはりイエローの勝ちだった。この後はホワイトとレッドの三位決定戦の後、試合が始まる。
三位はホワイトになった。イエローとの戦いで、レッドが疲弊していたことも大きいだろう。ホワイトの圧勝だった。ちょっとレッドが可哀想になった。
先輩達は再び競技場に向かう。僕達はもう応援することしか出来ないけど、優勝して欲しい。
「イエロー、指揮官が有能なんだろうね、態勢を立て直すのがとにかく早いからペースを乱されないように注意しないと」
隣でテディーが先程の試合の感想を言っている。グレイスと僕はテディーの見解を聞きながら先輩方の勝利を祈っていた。
最終戦が始まると、観客も熱狂していた。ほんの十ポイント程度の差で勝った方が優勝になるんだ。去年と同じくらいの接戦だ。興奮する気持ちも分かる。
最初に真ん中のキューブを取ったのはブラックだった。幸先の良いスタートだ。しかしイエローとはタッチの差だった。二回目も同じようにいくかは分からないだろう。
フランク先輩が防衛に回るよう指示を出しているのが見える。ホワイトの時とは違う陣形だった。練習の時に見たことがある。自陣の防御を強く固める陣形だ。どうやら主な攻防の場を真ん中に絞ることにしたらしい。イエローも陣形を見て理解したようだ。すぐに自陣の防御を固めて同じような構成にした。判断が早い。
それからは主に真ん中を取っては取られの連続だった。見ているだけでハラハラする。結果ブラックが真ん中を取って一回目は終了した。
休憩後の二回目は、イエローが真ん中を取った。その後は中央に人員を集中させた形を取っていた。ブラックが守りが薄い敵陣のキューブを取ろうとする度、中央から人員を送り込まれて苦戦していた。結果敵陣のキューブをひとつ奪ったけど、相手にも一つ奪われてしまって終了した。
これで同点、物凄くいい勝負だ。ここまで白熱するとは思わなかった。
最後のターン、真ん中を取ったのはイエローだった。二回目と同じ様に中央に人員を固める。それからはほとんど膠着状態だった。
互いになかなか相手のキューブを奪うことが出来ずに時間が過ぎてゆく。そろそろ終了というところでブラックが動いた。戦力を相手陣地のキューブに集中させる。イエローはその隙にブラックのキューブを取ろうと人員をブラック側に集中させた。キューブをひとつ取られても、相手のキューブを取ってしまえば負けることは無いからだ。
その時フランク先輩が動いた。先輩は防御の薄くなった中央のキューブに単身突っ込んでゆく、まさか指揮官が単身突っ込んでくると思っていなかったイエローは対応が遅れた。懸命に撃ち落とそうとするも先輩には当たらない。先輩はキューブに触れた後、妨害魔法に当たり墜落していった。
指揮官が墜落したブラックだったが、フローレンス先輩がブロックサインで他の生徒に指示を出していた。戦力が集中した相手方のキューブを取ると、全てのキューブの守りを固める。
墜落した先輩が戻ってくる頃には守りが固められていた。形勢逆転してからはイエローの必死の攻撃も虚しくキューブを取り返すことは出来なかった。
試合終了の合図が響く、ブラックの優勝はこれで確定したのだ。
僕達は競技場に走った。丁度歓声の中、空から降りてきた先輩達に飛びつく。みんな満面の笑みだった。
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