54.対抗戦当日
対抗戦当日の朝、僕は緊張のあまり早起きしていた。今日は家族皆とデリックおじさんで観戦に来てくれるらしいから、頑張らないと。
今日は午前中が的当てと魔法威力対決、そして午後からが格闘技トーナメントと取り合い合戦、そして陣取り合戦だ。
それぞれ順位によってポイント制になっていて、全てのポイントをを合わせて総合順位が出る仕組みになっている。しかし陣取り合戦はポイントが大きいので、例年は陣取り合戦の勝利チームがそのまま優勝する事が多かったそうだ。
今年は同じ点数で取り合い合戦があるから、総合優勝がどこになるのか予測が難しい。
今回は新しい下級生向け競技があると話題になっているようなので、今から緊張していたら身が持たなそうだ。
『きょ~うは~対抗戦な~の~出られ~な~いのが~残念な~の~』
アオが歌いながらスライムが出られないことを嘆いている。
『私も出たかったです。楽しそうで羨ましいです』
モモも残念がっている。今日はお父さんたちがシロ達の面倒をみてくれるから、一緒にいられない。そう思うととても心細く感じた。
『僕、一生懸命エリスの応援するからね』
シロがそう言ってくれたので、僕は頑張ろうと思う。
朝学園に向かう道を一人で歩いていると、なんだかとても寂しかった。早く学園に行こう。
僕は駆け足で学園に行った。今日は全ての学年のブラッククラスの集合場所に行く。
「あれ?モモちゃん達は!?もふもふは何処に!?」
学園に着くと真っ先にグレイスが言った。お父さんに預けてきたと言うと落胆したようだった。手が何かをモフモフするように動いている。僕と同じようにグレイスも緊張をモフモフで癒したかったんだろう。
グレイスは家族が見に来ない様なので、お昼を僕達の家族と一緒に食べないか誘った。グレイス以外は家族が見に来るので一人になってしまうのが可哀想だと思ったのだ。お父さんはこの学園がある土地の領主だからVIP観戦席が用意されているらしい。広いらしいからグレイスが一緒でも大丈夫だと言われていた。
「え?いいんですか?家族団欒の邪魔になりませんか?」
グレイスは遠慮していたが、おじさんもいるからと言うとちょっとホッとした様子だった。
「じゃあ、お邪魔させてください。いつかエリスの友人としてご挨拶出来ればと思っていたので嬉しいです」
グレイスは礼儀正しいから、きっとお父さん達も気に入るだろう。
その後次々やってくるブラッククラスの子達に、シロの所在を聞かれた。ドミニク先輩なんて地面に手をついて項垂れていた。
大人気だなシロ達。みんな試合前に癒されたかったらしい。アニマルセラピーってやつだな。アジズ先輩の従魔のウルフが少し寂しそうだ。連れてきたほうが良かっただろうか。
待機場からは、円形に作られた大きな競技場を見回すことが出来た。なんでもマジックミラーになっていて、競技場からはこの中は見えないらしい。一応学園の敷地内に建っている競技場だが、普段は一般に貸出したりもしているようだ。
その競技場の高いところに作られた観覧席が、時間とともに埋まってくる。まだ半分ほどしか埋まっていないけど、午後になると一気に観覧者が増えて席が埋まると教えてもらった。
午前は地味な競技しか無いからね。身内しかこないんだろう。しょうがない。
観覧席を見ていると、招待されたであろう孤児院のメンバーを見つけた。この学園は入学の倍率が高い代わりに学費がすごく安い。代わりに学園に貴族が入学する時は毎年多額の寄付金を納めなければならないと言う暗黙のルールがあったりするのだけど、貧しいけど優秀な者にはとにかく優しい学園だ。
だから貴族は跡取りをこの学園に入学させることがほとんど無い。優秀な魔法使いを育成するための学園に、将来領地経営をする跡取りを入れるのは貴重な平民のチャンスを奪うことに繋がるということからだ。
兄さんが入学したのはこの学園の建つ土地の次期領主だからである。学園のことを知っておかなければならない立場だからだ。
学園が孤児達を招待するのは、貧しいものにも優しい学園であるというアピールのためでもある。国最高峰の学園だが貴族ばかりを優遇しているのではないと言いたいのだ。尤も一部の貴族には学園のあり方が不満なようだが、今は七賢者のお陰で不満を口にすることは無い。
さてそろそろ対抗戦が始まる時間だ。僕は頬を叩いて気合いを入れると、開催式のために皆でフィールドに向かった。
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