47.見学
ダレル君が出場競技の希望をまとめて提出しに行くと、フランク先輩は軽く確認して頷いていた。
戻ってきたダレル君に笑いかけるとダレル君はホッとしたように息をつく。先輩と相対するのは緊張するよね。
フランク先輩はまた声を上げて、自己身体強化魔法のトーナメント出場者を発表した。六年生が二人、四年生が一人、二年生が二人らしい。下級生が多い僕らは体格的にかなり不利かな。
そもそもオタク気質の多いブラッククラスには自己身体強化魔法の使い手は少ない。性質的にも運動が苦手だという子が多いんだ。トーナメントの五人という数もブラックに合わせたと考えられる。
「皆も気づいているように、トーナメントはブラックが圧倒的に不利だ。しかし、我々にはまだ希望がある。最後の陣取り合戦の出場者を決めたいと思う。まず全員が陣取り合戦を体感してみて欲しい」
フランク先輩はそう言うと、五年生の級長のアジズ先輩に装置を起動するよう言った。
先程からずっと気になっていたんだ。空中に浮かぶ五つのキューブが練習場の四隅と中央に存在していた。
アジズ先輩が装置を起動すると、中央のキューブは無色に、左側二つは赤に、右側二つは黒に光った。
フランク先輩が腕輪を取り出して説明する。
「陣取り合戦はこの腕輪をつけて行われる。空中に浮かぶキューブに一人が触れるとその腕輪の色にキューブが光る仕組みだ。全員通信用の魔法道具を耳に装着し、自軍とだけ連絡を取り合うことが出来る。試合終了時により多くのキューブを獲得していた方が勝ちだ。簡単だろう?だからこそ奥深い伝統競技だ」
フランク先輩が主に一年生を見て言う。確かに単純な競技だ。でも楽しそうだな。
「細かいルールを説明しよう。魔法は特定の初級魔法のみが使用可で相手の妨害ができる。基本人数は十五人で、制限時間は十分を三回。間に五分の休憩がある。三回の合計獲得数を競う勝負だ。補欠として三人をベンチに待機させることが出来、休憩時間に選手の入れ替えができる」
フランク先輩は一旦息を整えると、上級生の方を見て言った。
「まあ、見た方が分かりやすいだろう。手始めに上級生で十分間だけやってみよう、その後は一年生にも体験させるから楽しみにしていろ」
みんなワクワクしながら手を叩いた。ちなみに本番は怪我をしないように教師がシールドを張ってくれるらしい。シールド越しにでも衝撃は伝わるから妨害には支障が無いようだった。
フランク先輩が適当に上級生の混合チームを作ると、早速試合をする流れになった。今更だけどブラッククラスは異様に女性が少ない。ウチのクラスもグレイスしか居ないけど、上級生達も似たようなものだった。
試合が開始されると、みんなまず真ん中のキューブを取りに行く。
上級生はみんな飛ぶのが速くて、その上飛びながら器用に魔法を放っているから凄い。守りとして数名自軍のキューブのそばに残ってはいるけど、ほとんどが真ん中のキューブを取りに行っていた。確かにルール上ここを真っ先に確保する戦法が強いだろう。真ん中を確保したのは赤チームだった。試合を見ながらフランク先輩が解説してくれるのを聞くと、色が変わってから三十秒はキューブに触れても数がカウントされず、意味が無いらしい。試合終了三十秒前の行動が勝利に大きく影響する様だ。
赤チームは黒の妨害をしながら守りを整える。残り時間いっぱい防衛に専念するつもりだろう。一応数名は攻撃に回しているようだけど、あまり芳しくないようだ。
僕はハラハラしながら夢中になって観戦していた。
途中黒が攻め方を変えた。真ん中を取りに行くつもりらしい。残りは三十秒を切っている。恐らく黒の最高戦力なんだろう、技術に長けた先輩が攻撃を避けながら赤の選手達を魔法攻撃で撃ち落とした。その隙に黒の選手たちが中央のキューブに触れる。これでもう真ん中を取られる心配は無い。黒は踵を返して自軍の防衛に回った。
なるほど、終了間際を狙って本気を出してきたのかと僕は感心した。
「確かに奥が深いねこのゲーム」
隣でテディーがブツブツ呟きながら分析している。
『リーダーの判断力が勝敗を分ける気がしますね』
いつの間にか隣に来ていたモモも楽しそうに戦法を考えている。
さて次は僕らの番だ。すごく楽しみだな。
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