42.祭りの終わり
明け方になると妖精たちの祭りは終わりを迎えた。朝日に照らされキラキラと輝く妖精の鱗粉が、踊る妖精達の美しさを引き立てている。
最後の踊りは妖精達に手を引かれ、みんなで踊った。
今日は本当に夢のような時間だった。
妖精は沢山の手土産を用意してくれた。新鮮な野菜と果物だ。お父さん達にも食べさせてあげよう。
「楽しかったな、エリス」
僕の頭を撫でながら言うデリックおじさんに満面の笑みで頷いた。
長にみんなで挨拶すると、次の祭りも招待してくれるという。
僕たちはみんな喜んで長にお礼を言った。妖精の友人であることを示す木札をもらって、みんな自由に遊びに来いとも言ってくれた。
大切にして、たまには遊びに来よう。妖精は人間の作るお菓子が好きだから、お土産に持ってくるのもいいだろう。
妖精の先導で森を出る時、デリックおじさんに明日は暇かと聞かれた。冒険に行く予定だと話すと、なんとデリックおじさんも付いてきてくれるという。指導しながら狩りに協力してくれるそうだ。
僕達は大喜びでおじさんにお願いした。七賢者の指導で冒険できる機会なんて、これを逃したらきっと無い。特に自己身体強化が得意なメルヴィンと、身体強化と魔法と両方に適性のあるナディアには貴重な機会だ。
ナディアはおじさんのように両方の魔法に適性があるのだと説明すると、おじさんも驚いていた。ジョブが『剣士』で両方の適性があるのはかなり将来有望だとナディアを褒めている。
ナディアは満更でもなさそうだ。
今日は一日眠って、明日の冒険に備えよう。僕達はすっかり登りきった朝日を眺めながら帰路についた。
帰宅すると、お母さん達が待っていた。お土産を渡すと喜んで、料理人に夕食に出すようお願いしていた。
僕は一緒に朝食をつまみながら、妖精の里での出来事を話す。明日はデリックおじさんと一緒に冒険するのだと告げるとお父さんは言った。
「デリックさんは確かルースさんと仲が良かったはずだから、エリスのことが可愛いんだろう」
ルースさんというのはおばあちゃんの弟子で、僕のお母さんのことだ。デリックおじさんからお母さんのことを聞いたことがないけど、仲が良かったんだろうか。
そういえば、おじさんもおばあちゃんの弟子のような存在だったと長が言っていた。兄妹弟子のような感じだったのかな。
おじさんにお母さんのことを聞いたら答えてくれるかな。
僕は部屋に戻るとベッドに横になって考え込んだ。どうしておばあちゃんもおじさんも、お母さんのことを僕に隠しているんだろう。
僕が知ってはいけない何かがそこにあるんだろうか。
僕は考え込みながらもどんどん眠くなってくる。夜通し起きていたのなんて初めてだったからな。結局答えは出ないまま、僕は眠りについた。
夢の中で、僕は祭りに参加していた。花火大会と言うらしい。僕の隣には一人の女の人が居て、楽しそうにしていた。
前世の僕は結婚していたんだな。何となくポメラニアンだけが家族だと思ってた。
お昼前になって、僕はモモに無理やり起こされた。昼に寝すぎると今夜眠れなくなるからだそうだ。モモは頭がいいな。
僕は眠い目をこすって起き上がる。シロ達も起こして僕は回復薬を作ることにした。
いつも通りアオに頑張って貰って、回復薬を作るとパスカルさんの所へ納品に行く。少し眠いから、シロに運んでもらうのではなく歩くことにした。アオも眠たいのかシロの上で静かにしている。
パスカルさんのお店に着くと、いつも通りの笑顔で迎えてくれた。
「よう、どうした。なんだか眠そうだな」
妖精の祭りに行っていたことを話すと、羨ましがられた。パスカルさんはおばあちゃんの所で一度だけ妖精に会っただけらしい。
僕はもしかしたらパスカルさんなら知っているかもと思って聞いてみた。
「パスカルさんは僕のお母さんのルースさんの事を知っていますか?」
そう聞くと、パスカルさんは固まった。
「……知っているよ。そうか、知っちまったのか。誰から聞いた?」
お父さんから聞いたと言うと、パスカルさんは何事か考えているようだった。
「なあ、ルースの事はあまり調べるな。お前の母親のことだが、みんなお前を守りたいから、何も言わなかったんだ。もう少し大きくなって、お前が自分の身を守れるくらい強くなったら、きっと教えて貰えるだろう……それまでもう少し我慢してくれ」
パスカルさんは悲しみに満ちた顔をしていた。僕は何も言えなくなってしまった。
静かに頷くと、パスカルさんは僕の頭を撫でた。
パスカルさんの店を出て、通りを歩くと、モモが言った。
『エリス、そんな顔をしないでください。大きくなったら教えてもらえると言っていたではありませんか』
僕は一体どんな顔をしていたんだろう。
『大丈夫です、みんなエリスを守りたかったと言っていました。エリスはそれを信じていいと思います』
そうか。みんな僕を守りたくて、あえて言わなかったのか。じゃあ今の僕が知りたいと願っても、きっと皆を困らせるだけだ。僕は強くならなければいけない。そうしたら、きっと皆お母さんのことを教えてくれるだろう。
なんだか少し心が軽くなった気がする。今はあんまりお母さんのことは気にしないようにしよう。僕は僕だ。それでいい。
ねえ、おばあちゃん。いつかきっとおばあちゃんみたいに強くなるから、その時はお母さんのことを知りたがってもいいよね。約束だよ。
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