41.妖精のお祭り
鳴り響いていた鐘が止まると、たくさんの妖精達が姿を現した。
楽器を演奏する妖精や、空中で舞い踊る妖精が居てとても綺麗だった。妖精の鱗粉が舞う度、地面に花が咲いてゆく。ただの土だったはずの地面が色とりどりの綺麗な花で埋め尽くされ、僕は感動した。
妖精達が花かんむりを作って僕たちの頭に乗せてくれる。暫く踊りを見ていると、料理が運ばれてきた。
人間用の料理なんてどうやって作ったのだろう。きっと頑張って作ってくれたんだろうな。
「沢山食べてくださいね」
運んできてくれた妖精にお礼を言うと、料理を食べ始めた。新鮮な野菜がとても美味しかった。普段はお肉ばかりのメルヴィンも、こんな甘い野菜は初めてだと喜んで食べている。妖精は植物を育てるのが上手なんだな。
モモとアオが夢中で野菜を食べている。
『これは最高です!妖精の作る野菜は特別なんですね』
『美味しいの!妖精、侮れないの』
シロは果物をちまちま食べている。さすがにシロがお腹いっぱい食べたら料理が無くなってしまうと思ったので、事前にご飯を沢山あげてきたんだ。シロには丁度いいデザートになったみたいで良かった。
大人用にお酒が運ばれてくると、だんだん賑やかになってきた。僕たち子供は果物のジュースだ。これもとても甘くて美味しい。
僕はいつの間にかデリックおじさんの膝の上に乗せられていた。昔からおじさんはいつもこうだ。僕もうそんなに小さくないんだけどな。
「あんた何やってんだい、その子が困ってるよ」
おじさんに、四十代半ばくらいに見える女の人が話しかけて来た。初めて会う人だ。
「この子はエリスだ。分かるだろう」
おじさんがそう言うと、女の人は目を見開いた。
「そうあんたが……私はメリッサ・スウィッツァー。よろしくねエリス」
メリッサ・スウィッツァーと言えば七賢者の内の一人だ。『疾風のメリッサ』の異名を持った魔女。足元を見るとおばあちゃんの作ったフライングシューズが装備されている。
メリッサさんはおばあちゃんと真逆で、初心者用のフライングシューズを多く開発している人だ。彼女自身は上級者用のフライングシューズを装備しているが、誰でも使える補助機能の開発に熱心なんだ。その上それを安価で販売している。
「あんたもネリー様のフライングシューズなんだね。ちゃんと飛べるのかい?」
僕は頷いた。メリッサさんの作った初心者用のシューズのおかげで基本がわかったとお礼を言っておく。
「それは嬉しいね。空を飛べるって最高だろう?あたしは一人でも多くの人にその素晴らしさを知って欲しいのさ」
それは素敵な目標だと思う。メリッサさんは上流階級だけでなく市井にもフライングシューズを普及させた立役者だ。昔は空を飛ぶのは上流階級だけの特権だったのだという。僕はその時代は知らないけど、きっとつまらない時代だったんだろうな。
魔法道具オタクのテディーは、多くの初心者用魔法道具を生み出したメリッサさんを、ここぞとばかりに質問責めにしていた。メリッサさんもテディーの知識量に感心している様子で、快く答えてくれている。
「おじさん、他の七賢者は今日は来ていないんですか?」
僕はおじさんに聞いてみた。
「今日は来ていないみたいだな、忙しいんだろう」
僕はちょっと残念に思った。
「他の七賢者なら、たまにふらっと立ち寄って帰っていくぞ」
長が教えてくれた。僕は長におばあちゃん達と出会った時のことを聞いてみた。
「今日来ている以外の、ネリー達五人の賢者と初めて出会ったのは、捕まっていた妖精を返しにきてくれた時だ。あの頃はまだ妖精が捕えられることが多くてな、いつ国を森に変えてやろうかと思っていたんじゃ。しかし、ネリーが国を変えるから待っていて欲しいと言ってきてな。面白そうだから待っていたら、本当に腐敗した貴族を粛清して革命を起こしおった」
長が当時を思い出したのか、豪快に笑う。
「あれは実に痛快じゃったのう。デリック、幼かったお前も協力していたのだろう?お前はネリーの弟子のようなもんじゃったからな」
おじさんはため息をついて言った。
「いつの間にか強制的に巻き込まれてましたね。まあ、俺も当時の貴族には思うところがあったんで良いんですけど。大変でしたよ、ネリー様達に付いていくのは。基本作戦無しの強行突破でしたからね」
おばあちゃんらしいなと思う。基本拳で語り合うスタイルだったんだろうな。
「はっはっは!それでこそネリーであろう!あの女子は力こそ正義を地で体現していたからの」
長が腹を抱えて笑っている。きっと長は、おばあちゃんの活躍を遠見の能力で見ていたんだろう。長く生きた妖精には遠見の能力が発現すると聞いている。
「弟子であるお前はネリーとは似とらんな。力押しをするタイプでは無さそうじゃ」
僕はおばあちゃんに自分を見習うなと言われてきた。弟子なのに師匠を見習うなとはどういう事だと思うかもしれないけど、僕とおばあちゃんでは持っている資質が違うのだそうだ。おばあちゃんは僕に合わせて色々なことを教えてくれていた。
すこし感傷的になって俯くと、長が頭を撫でてくれた。
「お前にもきっと持って生まれた役割があるのだろう。気負わずお前らしくあれば良い」
その言葉は僕の心に優しく響いた。
おばあちゃんも、きっとそう言いたかったんだよね。
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