40.妖精の里
秘密基地で皆に妖精の祭りに招待されたことを話すと、大興奮していた。ただでさえ妖精の里には招かれた人しか入れない。それなのにさらに祭りに参加できるんだ。皆喜んでいる。
週末に二日続けて行われる祭りは、妖精の夏祭りらしい。新鮮な果物や野菜が沢山あるし、お酒も振る舞われるので親しい人間も招待されるそうだ。
七賢者も来るのだろうか。来るならおばあちゃんの話を聞いてみたいなと思う。
七賢者の内の数名は僕も会ったことがある。おばあちゃんを心配して訪ねてきてくれる人が居たんだ。その時はそんなに凄い英雄だとは思っていなかったけど、おばあちゃんの伝記を読んで、すごい人達だとわかった。
そしておばあちゃん追放の一件以来、王城を出て王室とは距離を置いているということも知らなかった。彼らは王室のした事に懐疑的な貴族達の治める土地に移り住んだそうだ。今の王室はそれのせいでとても立場が弱いのである。
僕達は週末に転移ポータルを使って妖精の里の近くに向かった。森の入口に居たら妖精が迎えに来てくれるそうだ。夜通しのお祭りなんて初めてだからワクワクする。
待っていると、人の頭ほどの大きさの、綺麗な羽の生えた妖精が迎えに来てくれた。
「可愛い!」
妖精を初めて見たというグレイスがはしゃいでいる。可愛いと言われて嬉しかったのか、妖精はグレイスの周りをくるりと回った。
「すごい、本当に妖精だ」
テディーが感動している。妖精は用事がないと里から出ないから、滅多に見られないもんな。その上姿隠しの魔法も得意なんだ。
「ようこそ、私達の里へ。ご案内します」
鈴の鳴るような綺麗な声で言うと、妖精は森の中へ飛んで行った。
慌てて僕達は後を追う。
しばらく森を歩くと、突然景色が変わった。妖精の里の守りを抜けたんだ。
木々は不思議な光で彩られていて幻想的だった。たくさんの妖精が飛びながらキラキラとした鱗粉を振りまいている。
あまりの美しさに僕達は息を飲んで見とれてしまった。
「まずは長の所に」
僕たちの様子にクスクスと笑った妖精は、木々の道を進んでゆく。
しばらく歩くと開けた場所に出た。その奥に草で編まれた上等な敷物が敷いてある。そこに座っている小人のような老人が長だろう。
他にも何人かの人間がいたが、僕らは真っ直ぐに長の元に向かう。
「エリス・ラフィンです。ご招待ありがとうございます。お言葉に甘えて友人達と遊びに来ました」
僕は一人一人紹介してゆく。
長は目を細めてそれを聴いていた。
「ネリーの弟子よ。ネリーの死は大変残念なことであった。気づいた時には山小屋はもぬけの殻での、その後お前の行方を探したが見つけられなかった。いい家に貰われたようで安心したぞ。今日は楽しんでゆくと良い。ご友人方もな」
「ありがとうございます。祖母が死んだ時、長にも連絡しなければと思ったのですが、連絡方法がわかりませんでした。申し訳ありません」
僕が頭を下げると、長は笑った。
「よいよい、人間は短命だと忘れていた私が悪い。ネリーは何故か長生きするのではと思っておったのだ。殺しても死ななそうな女子だったからの」
長は少し寂しそうに笑っていた。僕らはそれぞれ挨拶すると、妖精が敷物の所へ案内してくれる。
長のすぐ隣の席を用意してくれたようで、なんだか嬉しかった。
座ろうと思った時、僕の体は誰かに掬いあげられた。驚いて見ると、見知った顔があった。
「デリックおじさん!」
おじさんは快活に笑うと僕を高く掲げて言った。
「よう、エリス、大きくなったな!」
デリックおじさんは、一番おばあちゃんの所へよく来ていた七賢者の内の一人だ。僕をとっても可愛がってくれていた。
彼は七賢者の中では最年少で、今は四十代半ばだ。民衆が王都を救った英雄達を七賢者と呼ぶようになった時、彼はまだ八歳だった。
高位貴族がドラゴンの卵を盗んできて、コレクションしようとした時、卵を追ってきたドラゴンが王都を襲ったのだ。
彼は八歳でドラゴンの翼を素手でへし折った、自己身体強化魔法の天才だ。ジョブは稀有な『魔法使い』であるために、普通の魔法も問題なく使えるすごい人だ。
ドラゴン事件は、卵を盗んだ貴族を王室が庇ったために、王家の権威が失墜した最初の事件でもある。
「今は学園に通ってるんだって?どうだ?楽しいか?」
僕はおじさんにこれまであった事を話して聞かせた。みんなを紹介すると、おじさんは安心したと言って僕の頭を撫でてくれた。
メルヴィンが自己身体強化魔法を得意としていることを話すと、今度休みの日に指導してくれる事になった。メルヴィンは大喜びだ。
みんな突然英雄に会えて興奮して、色々質問していた。デリックおじさんは丁寧に質問に答えてくれる。
そうしていると、大きな鐘の音が鳴った。祭りの始まりだ。
僕はとてもワクワクしていた。
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