38.バザー
バザーの前日、僕達は孤児院の子供達と協力して魔法のキャンディーを量産していた。
出来上がったキャンディーを小さな袋に詰める。ひと袋五個入りで銅貨二枚という手頃な値段だ。銅貨二枚は前世だと二百円くらいかな。
キャンディー本体よりラッピングの方がお金がかかっている気がするのは、まあ仕方がないか。
魔法をかけるのはナディアを中心とした魔法が得意な孤児院のメンバーだ。
今回、魔法をかけるのは孤児院の子供達に任せている。簡単な魔法陣だし、寄付したレシピで今後キャンディーを作るなら、孤児院のメンバーだけで作れるようになった方がいいだろうということで、僕達は手を出さないようにしている。
このキャンディーが、今後孤児院の名物になってくれたらいいなと思う。
翌日、空模様は快晴だった。絶好のバザー日和だ。
会場はバザーの参加者で賑わっている。僕達はキャンディーを口に含むと宣伝を開始した。
「食べると声が変わる魔法のキャンディーだよー!お子さんへのお土産にどうですかー」
シロに跨った僕が叫ぶと、周囲の人たちが笑っていた。連れられてきた子供達は興味を持ったようで買って欲しいとねだっている。
掴みは上々だ。アオも一緒にシロの上に乗って飛び跳ねている。
モモは売り子たちに混じってキャンディーをお客さんに手渡していた。ジーナちゃんのテイムしたラビも一緒になって可愛いと褒められている。
看板従魔作戦も成功していた。シロに興味津々の子供達に囲まれて身動きが取れなくなってしまったけど、僕は一生懸命叫んで宣伝をした。
午後になると、キャンディーは残り僅かになっていた。思ったよりも売れたみたいだ。みんな忙しそうだけど楽しそうだ。明日はもっと沢山用意した方がいいかもしれない。
バザーの終了を前に、キャンディーは売り切れてしまった。相乗効果で他の孤児院の子の作品もよく売れたようで何よりだ。
売り切れで撤収すると、僕たちは明日のためのキャンディー作りを開始する。テディーとグレイスとメルヴィンと僕で出来上がったキャンディーを袋詰めしていると、今日の売上を計算していたナディアが喜色満面で報告してくれた。
「過去最高記録よ!こんなに売れるなんて思わなかった!ありがとうエリス!」
ナディアに両手でガシガシと頭を撫でられた。こんなに浮かれているナディアを見るのは初めてかもしれない。
「明日は今日以上に売れるだろうね。売り子を増やした方がいいかも」
テディーがそう言うと、今日で作ったものが完売してしまった子達が名乗りをあげてくれた。
翌日、買った人たちのクチコミで広まっていたらしく、開店と同時に多くの人が押し寄せた。
貴族は慈善のため、孤児院の子達の作品を必ず買うという暗黙のルールの様なものがあるんだけど、それとは別に子供のお土産にするという貴族のご婦人方が多くいた。
買ったそばからその場でキャンディーを舐めて遊び出す子供たちが多かったのも、宣伝になったのだろう。
結局終始大盛況で、作った分は午後には完売してしまった。
その後は孤児院のみんなで打ち上げをした。みんな最終的な売上を聞いてはしゃいでいた。
孤児院長は僕のところに来ると、頭を下げてお礼を言った。僕はおばあちゃんのレシピを寄付しただけだから、そんなに畏まられても困るんだけどな。
売上の中から僕達の取り分を引いても、結構な額をそれぞれに配分できるようでなによりだ。
次のバザーでも同じくらい売れるといいんだけど。
「ねえ、そういえばこのキャンディーの魔法陣、ちょっといじれば声を低くする事も出来るんじゃない?」
テディーがそう言うと紙に魔法陣を描き始めた。たしかに声を高くに該当するところを低くに変えてしまえば出来そうだ。
「じゃあ次は二種類作れますね」
グレイスが魔法陣を修正して、これでどうですかと見せてくれた。
「マジか、お前ら凄いな、俺全然わかんないんだけど」
この魔法陣、声を高くの所は目立っていて分かりやすいけど、それ以外の所は僕も組み合わせが複雑すぎてよく分からない。描くだけなら簡単なんだけど、理屈を説明出来ないんだ。メルヴィンが分からないのも仕方ないと思う。
僕はグレイスが修正した魔法陣を余ったキャンディーに使ってみる。
口に入れると、確かに声が低くなった。
「低すぎて怖いな」
メルヴィンが笑いながら言う。
これも面白いから売れると思う。こっちの魔法陣も寄付する事になった。これで次のバザーも大丈夫だろう。
ナディアがまた大喜びで僕の頭を撫で回す。みんなの役に立てて良かったと思う。
おばあちゃん、今日はおばあちゃんのレシピでみんな笑顔になったよ。きっとおばあちゃんは喜んでくれるよね。
申し訳ありませんが、明日から3日まで更新はお休みします。
次は妖精の里編です。
皆様今年はありがとうございました!
良いお年をお過ごし下さい!




