37.ナディアの手伝い
放課後に秘密基地で勉強をするのが僕らの日課になった。秘密基地で過ごすのに違和感が無くなった頃、休憩時間にナディアが言った。
「今度教会でバザーがあるの、孤児院のみんなもそれぞれ出店することになったんだけど、何を作ろうか迷ってて」
バザーなんて楽しそうだな、クッキーとか刺繍がされたハンカチとか手作りの物が売られていると聞いている。
「素敵ですね!やっぱり簡単に沢山作れるものがいいですよね……」
グレイスが真剣に悩んでいる。
教会のバザーは貴族なんかもやってきて、孤児達がやっているお店で買い物してくれたりするんだ。孤児院と教会が連携してやる商売で、孤児院の子達にとっては貴重な収入元だ。貴族にとっては慈善事業の一環だった。
「毎年クッキーとかばかりじゃ芸がないかと思ってね。何か面白いものがないかみんなで探してるのよ」
面白いもので一つ思い出したことがある。昔おばあちゃんにされたイタズラだ。
「声が変わる魔法薬のキャンディーとかどう?」
僕が言うと、テディーが心配そうに言った。
「それ、犯罪者とかに悪用されない?」
どうやら勘違いされたらしい。僕が言う声が変わるは、前世のヘリウムガスを吸ったようになるという事だ。
僕が説明するとみんな興味を持ったようだった。
「でもそれ、大魔女様のレシピなんでしょ?流石に勝手に売るのはまずいんじゃない」
ナディアは心配そうだが、これに関してはおばあちゃんは好きに使えと言っていた。僕が孤児院にレシピを寄付してもなんの問題もない。寧ろおばあちゃんの事だから積極的に寄付するだろう。
僕がそう言うとナディアはホッとしたようだ。これなら孤児院の子供達でも簡単な魔法が使えれば作れるし、丁度いいだろう。
「子供向けの商品だけど、大魔女様考案って言えば興味を持って買っていく人も多いだろうね」
確かにおばあちゃんの名前を出せば効果は絶大だろう。それで孤児たちの懐が潤うなら、おばあちゃんの事だから反対なんてしないだろう。
「本当にいいのかしら?」
ナディアが心配そうに聞いてくる。僕は大きく頷いた。
次の日孤児院に集まって、魔法薬のキャンディー作りを伝授する。
作り方は普通のキャンディーとほぼ同じだ、違うのは触媒を加えて魔法をかけるだけである。触媒となるのはそこら辺に沢山生えている薬草だった。とても安上がりなキャンディーなんだ。
先日会ったナサニエルくんとジーナちゃんが興味深そうに鍋を覗き込んでいる。メルヴィンは小さい子供達に剣を教えてとせがまれたので不在だった。シロも子供達に大人気で外で遊んでいる。
「本当に簡単に出来るのね」
キャンディーを作って仕上げに魔法を掛けると、ナディアが感心していた。皆で試食会をすると、予想以上にみんな面白がってくれた。
「これ絶対売れるよ、子供へのお土産にどうですかって薦めるのがいいと思う」
テディーが変わった声のまま真面目に言うのが面白くて、また笑ってしまった。笑っても声が高くなっているから面白い。
確かに大人にはウケないだろうけど、子供には丁度いいおもちゃだ。
折角なのでバザーには僕らも参加させてもらって、大量に売ろうという話になった。孤児院の院長先生の許可を取ると、バザーで沢山売る作戦を考えた。
『沢山売るの!手伝うの!』
アオが飛び跳ねて看板スライムになると訴える。
『私も微力ながらお手伝いしますね』
モモも売り子をしてくれるようだ。シロもきっと参加してくれるだろう。
僕たちは普通に売る班と、常時キャンディーを舐めて宣伝する班に分かれることにした。
僕はキャンディー班だ、バザー当日が楽しみだった。
バザーは僕が思っていたよりも大規模なものだった。教会が場所を貸して、近所の住民や商人達も参加するらしい。孤児院の子達の店はメインストリートに出るらしく。立地としては最高だ。
さて問題はキャンディーをどれくらい作っていくらで売るかだ。バザーは二日間行われる。キャンディーは数時間もあれば作れるので、とりあえず大量に作って、足りなければ作り足す方法で良いだろう。
他の子供たちの作品も売れるように、お客さんに声かけすれば尚良しだ。
値段は原価の十倍くらいで、ちょっと高めに設定した。一応魔法薬だし、原価がそもそも安いので、十倍に設定しても十分安かった。
これが売れたらかなり儲かると、みんな気合いが入っている。
おばあちゃん、おばあちゃんのレシピで店を出します。沢山売れるといいな。
その日見た夢は、前世の僕がヘリウムガスで愛犬のポメラニアンを驚かせる夢だった。
いい歳して何してるんだろう、前世の僕。
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