30.学園長
「そもそもこの学園で貴族の横暴が許されなくなったのはあなたの師である、大魔女ネリーのおかげですからね。今また昔のように平民が貴族に虐げられる学園に戻す訳にはいけません」
学園長の言葉に目を見張る。
「ふふ、私は当時学園生でしたが、痛快でしたよ。彼女はこの学園の女番長でした」
確か首謀者達一人一人と喧嘩して回ったんだっけ、伝記に書いてあったな。
「そんな彼女も、病には勝てなかったのですね。こんなに早く亡くなってしまうとは。あと三十年は生きると思ってました」
学園長はおばあちゃんと面識があったのか。話を聞いてみたくなったけど、何だかあまりにも悲しそうで言葉に詰まってしまった。
「そうそう、今日は貴方の従魔を見させてもらいたくて来たのでした、エリスくん」
僕の従魔を?どうしてだろう。
「特殊な進化をした変異種の子がいると聞きつけましてね。珍しいことですから一目見ておきたかったのですよ」
『はーい僕です』
シロは学園長の元に行き体を擦り寄せた。
「この子ですか、見たところ色違いのジャイアントウルフのようですね。……人懐っこい子ですね。嫌われなくて良かったですよ」
シロは学園長が気に入ったらしい。尻尾をバタバタ振って甘えている。
「シロがすみません。普段はこんなにじゃないんですけど、学園長のことが好きみたいです」
学園長は仮面の奥で目を細めて笑った。
「嬉しいことですね。皆さんはこれから勉強会ですか?」
シロを撫でながら学園長が言う。
「はい、図書室に行くところでした」
シロの他にもアオとモモまで学園長の元に行って撫でてもらっている。学園長には従魔に好かれる何かがあるのだろうか。
「そうですか、図書室に関して分からないことがあれば何でも司書に聞くといいですよ。彼女は優秀ですから」
そう言うと、学園長は去っていった。
「びっくりした、でも学園長が来てくれて助かったね」
テディーが胸に手を当てて息を吐いた。
「従魔を売れとかふざけんなって話だもんな、危うく手が出そうになったぜ」
メルヴィンに殴られたら、彼は一堪りもなかっただろう。
学園長が来てくれて良かった。
「彼は貴族の間でも問題児として有名ですから、きっと学園長が何とかしてくれるはずです」
グレイスは一応貴族令嬢だ。家が放任主義らしく、あんまりそんな感じがしないけど。彼の噂を聞いているんだろう。
僕たちはそのまま図書室に向かった。図書室には自習室があるらしいのでそこで勉強するんだ。
初めて来た図書室は凄いの一言だった。塔のような形状に、円形の螺旋階段が設置されていて天高く伸びている。本棚には書籍がぎっしり詰まっていて、一体何冊あるんだろうという感じだ。
「あなた達、新入生?目的はなにかしら」
司書さんが声をかけてくれた。見るからにお上りさんだったから、新入生なのは一目瞭然だったんだろう。
「勉強に自習室を使いたくて」
そう言うと複数人で使える自習室の場所を教えてくれた。
「さてメルヴィン、分からないところはどこ?」
自習室に着くと早速勉強を始める。グレイスが集中力アップのまじないをかけ直してくれた。有難いことに、授業の前にいつもかけてくれているんだ。
『まじない師』は効力の弱いバフやデバフがかけられるジョブだ。
まじないの種類は多岐にわたる。魔法とはまた形質の違う物だ。その証拠に、まじないを使っても魔法陣が出ることは無い。ただ淡く光るだけだ。市井のまじない師はまじない屋を営んでいたりして結構人気があるんだ。告白前に魅力値アップのまじないをかけてもらったりね。グレイスの場合は魔力操作練度が高いのでより強力なまじないをかけられる。
自分も復習しながら皆で勉強を教え合う。シロとアオは寝ているが、モモはなんだか一緒に勉強しているみたいだ。
メルヴィンは魔法陣の暗記がとにかく苦手らしい。それでよく合格出来たなと思う。まあ、身体強化が得意なメルヴィンには無用の長物だろうけど、勉強しないとテストで悲惨な点数を取る事になる。そうしたら退学も有り得るんだ。
僕らはメルヴィンが魔法陣を覚えられる方法を考えた。とりあえずグレイスが記憶力アップのまじないをかける。
僕は前世で勉強に使っていた英単語カードのような物はどうだろうと提案した。紙に一枚ずつ書いて束ねたものを持ち歩くんだ。
みんな乗り気で、帰りに文具屋に寄って行くことになった。
勉強と買い物を終えて、シロに乗って家路を急ぐ。つい時間を忘れてしまってもうすぐ夕食時だ。
その日の夜、ベッドでおばあちゃんに今日の出来事を報告する。
おばあちゃん、今日は学園長に会ったよ。おばあちゃんとはどんな関係だったのかな?
その日の夢は高校で皆と遊んでいる夢だった。
前世の僕は勉強嫌いだったんだろうか。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!




