29.相談
目が覚めると、学園へ行く準備をする。
今日は全クラス合同の魔法学の講義だ。
みんなきっとシロを見てビックリするだろう。シロが大きくなって注目を浴びるのには慣れたけど、どんな騒ぎになるか少し怖い。
今日の僕にはダレル君にモモの健康管理について聞くという目的がある。
三匹を連れて早めに学園に行くことにした。
『い~いおて~んきな~の、きょ~うはい~いひな~の』
アオの歌を聴きながら、シロに乗って学園へ行く。これからはこれが日常になるだろう。
モモはシロの頭に乗ってキョロキョロと辺りを見回している。まだ森から出たばかりで色々珍しいんだろう。
学園に着くと、思った通り注目を集めた。視線を無視して講堂に入る。
予習していたのだろう、テディーが前と同じ席に座っていた。
「おはよう、エリス。急に講堂が静まり返ったから何事かと思ったよ」
テディーは笑いながら周りを見回した。みんなシロを見て動揺しているのが分かる。先週までは小さかったからね。
僕はその中で苦笑しているダレル君の所に行くと、モモを紹介した。
「またレア種!?すごいね、エリス君。レア種はなかなか人に懐かないって聞くのに」
そうなのか。僕がテイムした子達はみんな人懐っこいけどな。
ダレル君にピンクラビットの健康管理法を聞いていると、クラスの子が集まってきた。口々にシロについて聞いてくる。コミュ力の高いレッドクラスの子やテイマーの子達も話に加わってきて、なかなか賑やかになった。
不意に僕は視線を感じた。振り返ると、前に授業で合わないウルフを強制テイムしていた子が僕を睨んでいた。僕、何かしたかな。今日は彼の隣にウルフは居ない。
僕が首を傾げていると、ホワイトクラスのテイマーの子が気にするなと言ってきた。彼は従魔を連れてくることを学園に禁止されたらしい。それから合わない子の強制テイムについても学園に叱られたそうだ。今後任意テイムした子しか学園には連れてこられない決まりになったようだ。
それ以来テイマーの子は皆彼に睨まれると困った様子だった。ホワイトは特にテイマーの子が多いのに大変だな。
「任意テイムじゃ弱い魔物しかテイムできないのが普通だろ?エリス君はレア種で能力の高い子ばっかり任意テイムしてるから、嫉妬してるんだよ」
そんなものなんだろうか。僕が任意テイムの仕方についてテイマーの子達と議論していると、やっぱり優秀なまじない師に縁結びのまじないをかけてもらって森を歩くしかないという結論になった。
でもそれは一人でできることではない。そもそも森が危険だからだ。ホワイトならテイマーが多いから休日みんなで森に入ってみたらどうかと提案する。テイマーの子達は楽しそうに計画を立てていた。みんな任意テイムに憧れていたらしい。
みんなの従魔はどうやってテイムしたのか聞いてみたら、テイマーのために魔物の生け捕りをしている商人から相性のいい子を買ったんだそうだ。そんな商人がいるのかと驚いた。
見る限り彼らの従魔は幸せそうだ。強制テイムからでも仲良くなることはやっぱり出来るんだろう。
授業の始まる時間になったので、席に戻る。いつものメンバーが既に揃っていた。
「エリスとシロ達、大人気だったわね」
ナディアが笑って僕達をからかった。僕としては友達が増えたので嬉しい限りだ。
「モモちゃん、授業の間こっちに来ませんか?」
グレイスが自身の前を指さして言う。授業中も可愛いもふもふを堪能したいんだろう。モモも嬉しそうにグレイスの前の机の上に陣取った。アオはシロの上に居座っている。お昼寝する気らしい。
授業が終わると、メルヴィンはまた机に突っ伏していた。この後皆で勉強会の予定なんだけど、頭がパンクしてしまわないだろうか。
みんなで連れ立って図書室に行こうとすると、例のウルフを強制テイムしていた子が話しかけてきた。
「お前の従魔を買い取りたい、いくら欲しい?」
僕は言っている意味がわからなかった。
「その白いウルフだけでいいんだ、他にも従魔が居るんだから良いだろう?平民のお前が遊んで暮らせるだけの金は払うぞ」
彼は馬鹿にするように笑って言った。彼はどうやら貴族らしい。
「シロは家族だ。いくら出されても売ったりしないよ」
そう言うと彼は激高した。
「ふざけるな、僕が買い取るって言ってるんだ。お前は従えばいいんだよ」
そう言った時だった。彼の後ろに仮面の男の人が現れた。学園長だ。
「ディーン君、君は私の言ったことが分からなかったようですね。この事は君の実家に報告して然るべき対応をさせてもらいます」
ディーンと呼ばれた彼は、青くなって学園長に謝罪した。
「君が謝罪するべきは私ではないでしょう。この学園では権力を笠に着た言動、行動は禁止されています。しかも他人の従魔を買い取るなどと非常識にもほどがあると思いますよ。さあ今日は帰りなさい。明日から一週間停学です。学園に来なくてよろしい」
ディーンは悔しそうに僕を睨んで帰って行った。あれは多分反省していない。
「ありがとうございます。学園長」
僕は学園長に頭を下げる。
「いえいえ、たまたま通りがかって良かったですよ。彼は王家の覚えもめでたい侯爵家の末っ子でね。彼に関してはこちらが対応しますので安心してください」
学園長は口元に笑みを浮かべて言った。
いったい学園長はどんな用事でここに来たんだろうか?
申し訳ありませんが、今日からしばらく一日一話更新になります。
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