22.実践授業の前に
学園に通い始めて三日目の朝。今日は待ちに待った実践授業だ。
昨日のギャガン先生の一般教養の授業は分かってることばかりで退屈だったが、ギャガン先生が間に小ネタを挟んでくれるので面白くもあった。意外と良い先生なんだよな、ギャガン先生。
昨日はクラス単位の授業だったから、クラスのみんなともやっと挨拶できた。見るからに個性的な子が多い中、級長を押し付けられたダレル君だけは真面目そうだった。きっと試験の時に見た適性で級長に選ばれたんだろう。
今日の実践授業はホワイトクラスと合同だ。授業の度に組み合わせが変わるそうだ。少数授業でありながら、より多くの魔法に触れて能力を伸ばせるようにらしい。
僕は楽しみで、学校までシロと競争しながら走っていった。
授業を行う魔法練習場に着くと、テディーとグレイスがもう来ていた。おはようと挨拶して先生を待つ。
「ねえ、シロだけど、また昨日より大きくなってるよね」
テディーが訝しげにシロを見て言う。僕もそれは気になっていた。
餌の量を増やしてから、首に結んでいるスカーフがキツいと訴えられるのだ。
「骨格ごと大きくなってるから太った訳では無いと思うけど、ちょっと成長速度が速すぎない?」
テディーがシロを色々な角度から見て首を傾げている。
『僕もっと大きくなれるよ!そんな気がするんだ!』
シロが嬉しそうに尻尾を振る。
「ご飯の量をもっと増やしたら、もっと大きいもふもふになるんじゃないですか?」
グレイスは目をキラキラ輝かせて言った。グレイスは動物に目がないらしい。
「一回食べられるだけ食べさせてみたら?本当に大きくなるかもよ」
テディーの言葉に、シロが期待した目で僕を見る。足りなかったのかな。だとしたら悪いことをしてしまった。
「そうだね、一回食べられるだけ食べさせてみるよ」
シロは嬉しそうに尻尾を振りながら、僕の周りをクルクル回った。
『おっおきっくな~れ!が~んば~れシ~ロ!』
アオもシロの上で楽しそうに歌い出す。
シロが大きくなったら冒険中とても心強いだろう。大型のウルフ種で一番大きいのだと大人を乗せて走ることも出来る。その分強いのでテイムされる事は稀なんだけど。僕が小さいうちならシロに乗って走れるかな?ちょっと楽しみだ。
始業の鐘が鳴って先生がやって来た。綺麗な女の先生だ。
「みんなー初めまして!イヴリンでーす!イヴリン先生って呼んでね!」
何だかかなり個性的な先生のようだった。
「あらあら可愛い従魔さんが沢山いるね!従魔さんは危ないから隅っこの方に行こうか」
そうなのだ、ホワイトクラスにはテイマーが多いみたいで、今この練習場には従魔が八匹ほど居る。僕はシロ達に隅の方で待ってるよう言った。お利口な彼らはすぐ言うことを聞いてくれる。
しかし周りを見ると、無理やり引きずるように連れて行っているテイマーがいた。多分合わない子を強制テイムしたんだと思う。
波長が合う子じゃないと強制的に言うことをきかせるにも限界があるんだ。それはとても危険なことだし、従魔が可哀想だ。
「あらあら、言うことを聞かない子をテイムしている子がいるみたいね。危ないので外に出してはいけないのよ。テイマーギルドで言われなかった?」
指摘されたその子は顔を真っ赤にしていた。引きずられていたウルフがザマアミロと言わんばかりに鼻で鳴いた。かなり頭のいい子なのかもしれない。
これだから強制テイムは薦められない。強制テイムしたとしても、ちゃんと優しく接したら信頼関係も築けるのに、それを怠る人が多いんだ。
まじない師に良縁を引き寄せるまじないを掛けてもらって、森を歩けば相性のいい子は見つかるだろうに。みんな弱い魔物ばかり寄ってくるから嫌だという。
おばあちゃんは、弱い魔物ばかりよって来るのはその人の人としての器が小さいからだと言っていた。無理やり言うことを聞かせようとする光景を見ればさもありなんだ。
「ちゃんと身の丈にあった子をテイムしましょうね。じゃないといつか後悔するわよ。強制テイムした魔物に食い殺されたテイマーも居ますからね」
イヴリン先生は満面の笑みで怖いことを言う。この先生、優しい口調だけど怒らせると怖い人なのかもしれない。
シロ達の方を見ると、他の従魔達と談笑しているようだった。仲良くなれたようで何よりだ。
ウルフを強制テイムしていた子は、結局ウルフを連れていくことが出来ずに泣いていた。ウルフは主人が泣いていようがお構い無しで練習場の真ん中に居座っている。
相当腹に据えかねていたのだろう。でもこの位で済ますあたり元々優しい気性のウルフなんだと思う。じゃないと本当に食い殺されているだろう。
イヴリン先生はその子を叱るとウルフにどいてくれるよう頼んだ。
ウルフは先生の言うことはよく聞いた。やっぱり賢い。
イヴリン先生は泣いている子に今日の所は従魔を連れて家に帰るように言った。
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