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182.予定調和の救出劇

 僕がなんとか拘束を外そうともがいていると、大きな音が鳴った。

「エリス!大丈夫か!?」

 突然窓が開いて、トレバー君が入ってくる。

 必死に逃げる方法を探していた僕は驚いた。

「トレバー君……なんで?」

「……アンドレアス殿下に頼まれたんだ」

 

 トレバー君が僕の拘束を外してくれながら言った。またアンドレアス殿下……

「じゃあ、殿下は知ってたんだ。こうなることを」

 不貞腐れたように言う僕にトレバー君は痛まし気な顔をした。

「……多分必要だったんだよ、殿下の望む未来に、この過程が」

 先見はズルいと、本気で思う。今の所全て殿下の手のひらの上なのだろう。

 僕の頭は自分でも不思議なほどさえわたっていた。きっと、王が領主の息子である僕を誘拐したという事実が必要だったんだ。だからアンドレアス殿下にそっくりな顔の僕を釣り餌にした。

 僕を無事に助けられるのも、きっと先見でわかっていたんだ。もし未来がズレても、きっとすぐに修正したのだろう。

 

 僕は木を伝って庭に降りるトレバー君について行きながら、だんだんやさぐれた思考になっていた。

「あー、ムカつくのはわかる。俺もめちゃくちゃムカつくし。でも償いはするって言質はとったから。めちゃくちゃ高けーもん要求してやろうぜ!」

 トレバー君は、アンドレアス殿下に協力しながらも僕の気持ちを慮ってくれた。

「お城で宮廷料理食べ放題とか?」

「いいじゃんそれ!全部が終わって王が処刑されたら叶えてもらおうぜ。心配してるから、テディー達も一緒にさ」

 そっか、僕はみんなと一緒にいる所を誘拐されたんだ。そりゃあ心配するだろう。シロ達も従魔契約が切れないから僕の生存はわかるだろうけど、きっと心配している。

 

「お前って、なんか肝が据わってるよな。俺、王が処刑されるって言ったんだけど……」

 トレバー君があきれ顔で僕に言う。

「……だって、ここまできたらもうそういうことでしょう?王は偽物の王族だ。だから豊穣祭の儀式が行えなくて焦っている。だから儀式のために王族の血を引く人間を探している。そしてだからアンドレアス殿下そっくりの僕が利用された」

 僕はさっきまで考えていた推測を話した。

「全部正解。王は焦っただろうな。まさか自分が不貞の末に生まれた子だと知らないで、自分だけが権力を享受したいがために王族の血を引く義兄弟達を殺して回った。自分が王族の血を引いていないと気が付いたころには、殺し損ねた兄弟達もみんな逃げ延びて隠れてしまった。自分じゃ儀式ができないから何とか王族の血筋を探しださないと身分詐称で破滅だ。アンドレアス殿下は王の罪状を増やせるだけ増やして確実に殺したい」

 

 僕はなんだか胃がムカムカした。

「それ、アンドレアス殿下なら王の暗殺くらい簡単だよね」

「……俺も思うけど、みんな王を社会的に殺してやりたいらしい。後世の教科書に延々と一級犯罪者として刻ませるくらい盛大に。まあ、王は殺しすぎたからみんなの気持ちも分からなくはないけど……俺達子供を巻き込むなって話だよな」

 何やら古ぼけた小屋の中から隠し通路を通りながら、僕達は愚痴めいた言い合いをする。

「そういえば『鍵』ってことは、トレバー君王子様なんだ」

 そう言うと、トレバー君は微妙な顔で振り返る。

「お前もだよ、王子様」

「……ガラじゃないよね」

 僕は山育ちの普通の子だ。誰が何と言おうとそう言いたい。

「ほんとそれ。……王が処刑された後、お前は身分を隠したままでも生きていけるけど、俺は祖父が次の王になる予定だから。本当に王子様だよ」

 トレバー君は本当に嫌そうだ。

 

「なんでアンドレアス殿下が王じゃないの?」

 僕が深く考えずに言うと、不意にトレバー君の瞳が真剣な色を帯びる。

「お前と大魔女様のためだよ」

 その言葉は、僕の胸に深く突き刺さった。自分でもよくわからないけど、その言葉にひどく衝撃を受けたんだ。

「あの方は、本当は大魔女様の事もお前の事も巻き込みたくなかったんだよ。

 でも垣間見た未来がそれを許さなかった。あの方も自分で見た未来に縛られて、かわいそうな人なのかもな」

 トレバー君は淡く微笑んで僕を見ている。その眼はとても優しかった。きっと僕がどんな選択をしても、トレバー君だけは僕を責めたりしないと教えてくれているようだった。

 ああ、悔しいな。この人選も全部、全部、アンドレアス殿下の思惑通りなのだろう。

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