176.将来の夢
お見合いパーティーも終わって兄さんは最近ご機嫌だ。過去の恋人と色々あっただけで意外とロマンチストなのかもしれない。
僕はと言えば、ジョアンナさんと話したことでまだ悩んでいた。元々僕がもっていた夢はおばあちゃんのような魔法使いになりたいという夢ともいえないようなものだけだ。具体的にはどうしたいのかなんて全く考えたことは無かった。
魔法使いになりたいというなら魔法使いとしてこの領地の騎士団に入るのもいいかもしれない。でもなんだかしっくりこなかった。
数日考えたけど何も浮かんでこない。だから僕は秘密基地でカラフルのみんなに相談してみることにした。
「異種族交流部?」
僕の話を聞いたテディーが、そんな機関テストに出てきたっけと首を傾げている。
まだ設立されたばかりの小さな部署だと言うと得心がいったようだった。
「将来の夢が無ければおいでって言われたんだ。でも夢ってよくわからなくて……」
僕がそう言うとみんな考えこんでしまった。
「俺はやっぱり騎士団に入ることだな。憧れの人もいるし」
メルヴィンの夢は入学したころから変わっていない。この真っすぐな性格が今は少し羨ましい。
「私は……そうねぇ、孤児院の事が気になるからこの領地内で就職できたらいいなって思っているわ。それこそ騎士とか、ギルドの職員なんてのもいいわね」
ナディアもまだ確定しないまでも、展望はもっているようだ。
「ぼくは……もし出来たらだけど、お父さんの後を継ぎたいかな。大型魔法道具の部品製作の仕事なんだけど……あとはその片手間に鑑定士とかやれたら楽しそうだなって思ってるよ」
テディーは鑑定士になるものだとばかり思っていたから、お父さんの後を継ぎたいと聞いて少し驚いた。
帰省の時にそんな話をしたらお父さんが嬉しそうにしていたらしい。
テディーならきっとなれると思う。
グレイスに話をふると、グレイスは何やら考え込んでポツリと言った。
「異種族交流部、私、ちょっと気になります」
みんな目を見張ってグレイスを見た。僕も正直驚いている。グレイスは人見知りのきらいがあるから、そういう社交性が必要とされるものは選ばないと思っていた。
「私……今までエリスのおかげで色んな種族の方達と仲良くなれて、とても楽しかったんです。だから、もっと沢山の異種族の方とお話ししたいです」
グレイスは大人しそうに見えて実は結構行動力がある。そうすると一度決めたら曲がらない愚直さもあると僕は思っていた。
異世界交流部の話を聞いているグレイスはとても目をキラキラさせていた。本気で目指したいと思ったのかもしれない。
「じゃあ今度ジョアンナさんにお願いしてみるよ。一緒に見学に行こう」
そう言うとグレイスは嬉しそうに笑った。興味があることが見つかって何よりだ。
「で、お前の夢はどうなんだ。エリス」
メルヴィンに問われて僕はまた首を傾げてしまった。人の話を聞いていたって、自分の夢は決まらない。色々考えるけど、なぜかどれもしっくりこないんだ。
「まあまあ、まだ学園もあるんだし急いで決めることないよ。エリスがこれだって思ったものを目指せばいいと思うよ」
テディーがお菓子を僕の口に放り込んで笑う。僕はもぐもぐしながらおばあちゃんの事を考えていた。
僕の夢が見つからないのは、多分おばあちゃんが凄すぎたからだ。おばあちゃんの様になりたくても、どうすればそうなれるのかわからない。
そもそも僕はおばあちゃんのどういうところを尊敬していたんだろう。
きっと強くてかっこいいところと、いつだって誰かのために戦っていたところだ。
まるで戦隊モノのヒーローみたいに、僕の中でいつだって正しくてかっこいいのがおばあちゃんなんだ。
「僕の目標って、どう考えてもおばあちゃんなんだよなぁ」
そう呟くと、みんな困ったような顔で僕を見た。
「それはちょっと理想が高すぎるんじゃない?」
「大魔女様と比べてしまうから、どれを選んでもしっくりこないのでは……」
「うーん難しい問題だね」
「……大魔女様みたいになりたいよりも、自分に何ができるか考える方がいいんじゃないか?」
自分に何ができるかか……メルヴィンの言葉はなんだかすんなりと胸に落ちた。ここ数日抱えていた胸のおもりがとれたようなここちだ。
「うん、みんなありがとう!僕に何ができるのか、探してみるよ!」
ソファから立ち上がった僕を見て、みんないきなり元気になったなと笑っている。
やっぱり持つべきものは何でも相談できる友達だなと思う。




