174.異種族研究家
「ねえ、エリス君。その子ってもしかして幻鳥!?」
魔物が好きだというクライス君が目を輝かせて聞いてきた。僕がそうだよと頷くと、さらに目を輝かせている。クリアは仕事が残っているからと飛んでいった。
「すごいね、エリス君の従魔。珍しいのばっかりだ」
「料理も珍しい物ばっかりだよね。これなんかすごく美味しい」
アンディー君がコロッケをたくさんお皿に盛って食べている。僕が料理長と相談して作ってもらった料理はみんなレシピカードが置いてある。それをアンディー君に教えると、カードを貰いに行ってしまった。
三人共料理がいたく気に入ったらしく何度もおかわりしながら話にも花が咲いた。
女性客にはスイーツが人気みたいで、近くにある席で楽しそうに話しているのが聞こえる。アオとモモはどこかのテーブルの下に居るのだろうか。ちょっと心配だ。
席から周りを見回すと、兄さんが数人の女の人に囲まれて困っているようだった。
「ごめん、僕ちょっと兄さんに休憩すすめてくるね」
三人を席において歓談スペースに行くと、兄さんが助けを求めるように僕を見てくる。輪の中には兄さんの友達も混ざっているけど、兄さんは大変そうだ。
僕は料理長に兄さんの分の飲み物を貰って輪の中に入ってゆく。
「兄さん。皆さんも、そろそろ休憩しませんか?」
「ああ、エリス。そうだね。皆さんも立ちっぱなしで疲れたでしょう。今日は珍しい料理をたくさん用意しているので、休憩にしましょう」
グラスを受け取った兄さんに輝くような笑顔を向けられて、僕は苦笑した。よほど疲れていたらしい。
テーブルに移動すると、すかさず兄さんの隣の席を確保した女の人が二人居た。ちょっと派手そうな見た目の女の人だ。他の人は珍しい料理に目がいっているのに、二人は兄さんを挟んでにらみ合っている。
……肉食系女子ってやつかな。
『エリス、エリス!ちょっとこっちに来るの』
突然アオに呼ばれて、僕はアオの声がした方に行く。するとテーブルの陰でアオが待っていた。
『エリス、候補者を絞り込んだの。兄さんがその人達と話せるように誘導するの!』
アオにものすごく大変な使命を与えられた僕は、こっそり周りを見回しながらアオ推薦の女性を確認する。
一人は先ほどあいさつしたジョアンのお姉さんだ。二人目は先ほどから色々なテーブルを回ってお喋りしている活発そうな女性。アオとしてはこの二人が高評価なのだそうだ。
二人はちょうど一緒にいる様子だったので僕は二人に近づいた。シロも後ろからついてくる。
「こんにちは、楽しんでいますか?」
僕が話しかけると、二人とも振り返って挨拶してくれる。ジョアンのお姉さんがフェミナさんで、活発そうな女性がジョアンナさんだ。
「お話しできて嬉しいわ。あなたの従魔気になってたの、触ってもいいかしら」
ジョアンナさんがシロを撫でるとキョロキョロと辺りを見回す。
「あの幻鳥はどこに行ったの?」
「多分その辺を飛んでるんだと思います」
僕が適当な返事をすると、ジョアンナさんはとても残念そうにしていた。
「そう、幻鳥はエルフと共存しているでしょう?だから間近で見たかったのだけど、しょうがないわね」
なぜそこでエルフの名前が出てくるのかわからなくて、僕は首を傾げる。
「ジョアンナの家は代々異種族の研究家なのよ」
フェミナさんが教えてくれる。二人は元から知り合いだったらしい。異種族の研究家とはなかなか心惹かれるものがある。
「あれ?エリス君も興味ある?我が家の研究は異種族と良好な関係を築くために始まったものなの。異種族に関して歴代の王家の相談役でもあるのよ」
異種族のことに関しては国で一番発言権がある家らしい。僕はすでに様々な異種族と会っている。彼らの事をもっと深く知りたいと思っていたから、話を聞きたかった。
「ちょっと座って話さない?」
ジョアンナさんは元々座っていた席に僕を誘うと、楽しそうに研究について話し始めた。
「やあ、弟の相手をしてくれてありがとう」
そこにいい加減に限界だったのだろう、二人の肉食女子を振り切った兄さんも参加して話をすることになった。
僕としてはどうやって兄さんを呼ぼうかと思っていたから丁度いい。