172.立食パーティー
兄さんは僕の問いにため息をつきながら答える。
「人を見る目ならモモやアオの方があるだろう。それに小さいからこっそり隠れてお見合い相手の本性を見抜けるかなって……あとは
うちの嫁になるならシロを怖がるようじゃ駄目だろう?ああ、それに養子だからってエリスを蔑ろにするような子も駄目だ」
兄さんの女性不信は僕が思っていたよりも酷そうだ。お見合い相手を容赦なく試すつもりでいるらしい。
『パーシー兄さんの頼みなら喜んで協力するの!盗み聞きは任せるの!』
アオが飛び跳ねて兄さんにアピールする。いささか良くない単語が飛び出したがアオはやる気まんまんだ。
「助けてくれるのか、アオ、ありがとう!」
兄さんは飛び跳ねるアオを捕まえて撫でている。ふたりは言葉が通じないはずなのにちゃんと意思疎通がとれているからすごい。
モモはうーんと唸っている。あまり気乗りしないのだろう。
『しょうがないですね、協力しましょう』
ため息をついてモモは言う。作戦を考えるアオの楽しそうな様子に協力は不可避と考えたのだろう。
『僕は何をすればいいの?』
『まあ、手伝えそうなことがあれば手伝うぜ』
シロとクリアはそれぞれあまり細かいことは気にしていないらしい。チャチャは、兄さんの部屋のカーテンによじ登るのに夢中で話を聞いていない。
『お見合いは立食パーティーって言ってたの。女の人だけが来るの?』
食事の席で父さんが言っていた。立食パーティー形式だから兄さんの友達も呼ぶようにと。僕は立食パーティー形式というのがよくわからない。兄さんに聞いてみると、男女関係なくみんなで集まって食べたり飲んだりしながらお話しするんだそうだ。
表向きは見合いという名目じゃないらしい。なんでそんな面倒なやり方をするのだろう。きっと貴族のルールのようなものなんだろうな。
「エリスの事も俺の友達に紹介しような。俺に弟ができたのはみんな知ってるから、歳の近い子が居たら連れてきてもらうように言っておくよ」
兄さんの言葉に顔を上げる。僕にもとうとう貴族の友達ができるかもしれない。今までは貴族の行事にはほとんど参加してこなかったから、貴族の友達は学園にしかいない。グレイスとかクラスメイトとかね。
この国の貴族には子供や跡継ぎじゃない次男以降が参加する行事がほとんどないから、必然的に僕も参加することが無かったんだ。
「そうだ、エリス。パーティーの食事にはエリスの考えた料理も作ってもらおう。ほらポテトチップスとか」
立食パーティーにポテトチップス?僕はなんだかミスマッチだなと笑った。
前世の僕が食べていた料理を度々この世界で再現しているけど、その中でもポテトチップスは兄さんのお気に入りだ。料理長にお願いして、元々この世界にある料理を少しだけ日本風にアレンジしてもらったりもしていたから我が家の食事は少し異質だった。
「みんな驚くぞ。エリスの料理は美味しいからな」
日本の料理は美味しい。おばあちゃんに前世の記憶を思い出させてもらった時、この世界の食事に不満を覚えたくらいには。みんな気に入ってくれるといいな。レシピカードでも作って置いておいたら喜んでくれるかな?後で料理長に相談してみよう。
『じゃあ計画をたてるの!悪女をあぶりだすの!』
アオは本当に楽しそうだ。兄さんのためにと燃えている。でもあんまり疑ってかかるのも招待客に悪いように思う。
「悪女をあぶりだすんじゃなく、いい子を探すんだよ」
僕がアオに言うと、アオは面白がっていたことを少し反省したらしい。
『わかったの。パーシー兄さんはどんな子が好みなの?』
聞かれた兄さんはかなり戸惑っていた。
「うーんそうだな。理想としては父さんと母さんみたいになれたらなって思うけど……俺と父さんじゃ性格が違うからなぁ。逆に俺にはどんな子が合いそうだと思う?」
逆に問い返されて僕達まで困ってしまった。
「うーん、兄さんの事だから賑やかな人の方が合いそうだと思うな。兄さんみたいに音楽や歌劇が好きなら兄さんも楽しいんじゃない?」
兄さんは確かにと嬉しそうに笑う。兄さんを見ていると、このお見合いは本当に大丈夫なのだろうかと思う。そもそも兄さん自身が積極的に相手を探す気持ちが薄いのだ。
前途多難だなと僕は思った。




