163.流れ星
温かいシチューをたくさん食べて、温かいお茶を飲んで、僕らは食後のまったりとした時間を過ごしていた。赤々と燃える焚火が暖かくて今にも眠ってしまいそうだ。現にシロはもう眠っている。
夜にテントの番をするとはりきっていたから早めに仮眠をとっているのだろう。
僕はシロのふわふわの毛を撫でながらカラさんを見た。もうすっかり落ち着いたようだ。
和やかに談笑していると、フェルミルさんが戻って来た。
「ただいま、エド君は無事に森の麓まで送り届けたわ」
僕らはフェルミルさんに残りのシチューを差し出しながら、エド君の様子を聞いた。
「ありがとう、美味しそうね……エド君は不貞腐れてたわ。みんなの元に戻るよう説得しても聞いてくれなくて……このままの空気で明日の冒険で何かあっても困るから、帰ってもらえて良かったかもね」
フェルミルさんもあれは駄目だと判断したらしい。集団において足並みを乱す人間が居るのは致命的だ。
「本当にごめんね、ああいうやつなの」
カラさんは悲しそうな顔をして謝罪してくる。
「……カラさんは何であいつと組んでるんだ?」
メルヴィンが首をかしげながら聞いた。聞きにくいことを嫌味にならずに聞けるのはメルヴィンの才能かもしれない。
カラさんは虚を突かれた顔をした。
「幼馴染だから……かな?小さい頃から一緒だから。あいつあんな性格だから、友達が少ないの。でも、いいところもちゃんとあるんだよ」
カラさんは儚げに笑っている。本当にエドさんが好きなんだな。
「カラさんはいいの?その……あんな扱いで」
ナディアも強めにエドさんを振った後だからか、ずいぶんはっきり聞いている。
「良くはないけど……エドの中で私は幼馴染でしかないんだよ。だから誰かを好きになっても、私に隠す必要はないと思ってるし、それ以前に惚れたら誰が相手でも一直線だから」
「なんであんなに惚れっぽいのかしら」
ナディアがため息をつきながら言う。
「エドは母親が居ないの。お父さんは亡くなったお母さんを今でも愛していてエドに語って聞かせてるから、憧れてるんじゃないかな?」
思ったよりも明確な答えが返って来て驚いた。カラさんはそういう事情を知っているから、エドさんを擁護しているのか。
「ごめんね、私もナディアさん達に微妙な態度とっちゃって。こんなに優しい人達なのに。エドが好きになった人とどう話したらいいか分からなくて」
カラさんはエドさんのことが好きなんだろうし、好きな人が他の女の人を追いかけてたらそりゃあ微妙な態度にもなるだろう。ナディアは首を横に振った。気にしなくていいと言う意思表示だ。
「私もエドさんにどうしたら良いのかわからなかったから、お互い様だよ」
「本当に困らせてごめん……」
ナディアはころころと笑っている。ナディアとカラさんはなんだか仲良くなったみたいだ。空気がさっきよりも気安い。
「あいつこんないい幼馴染に迷惑かけて、反省してほしいぜ」
メルヴィンが呆れたようにつぶやくと伸びをして後ろに倒れる。
「お、星がきれいだぞ」
メルヴィンが言うのでみんなで空を見上げた。本当だ。なんだか街で見るよりずっと空がきれいな気がする。僕も横になると星に手を伸ばした。なんだか掴めそうだ。
「流れ星に三回願い事をすると叶うんだっけ?」
僕が言うとみんな不思議そうな顔をした。
「なんですか?それ」
しまった、これ前世知識だ。僕は慌ててそんな話を聞いたことがあるとごまかした。
「楽しそうですね!」
みんなで流れ星を探して必死に祈る。三回も願い事をするのはどう考えても無理なんだけど、挑戦するのは楽しかった。
みんな何を願ったのかな?いつの間にかシロも起きていて、願い事合戦に参加している。僕らはその日はみんな笑顔で冒険を終えることができた。
はしゃぎすぎてマシンさんにとがめられながらも、眠るときの見張りの重要性なんかを教えてもらう。
夜行性のチャチャがテントの中ではしゃいで大変だったけど、何とか交代で眠りについた。
この訓練は二泊だ。明日は一日中冒険できる。明日も楽しみだな。




