162.美味しいシチュー
大きく息を吸ったナディアはシロに取り押さえられたエドさんを睨む。
「はっきり言って迷惑です。一目ぼれだか何だか知りませんけど、エドさんは私の好みじゃないので!そういう態度をとられても困ります」
言われたエドさんは抵抗をやめて茫然としていた。ナディアにしてはずいぶんはっきり言ったなぁ……よほど疲れていたんだろうな。
ナディアの異性の好みは知らないけど、確かに相性はよくなさそうだと思う。
「私達は勉強しに来てるんです。邪魔しないで下さい」
ナディアに睨まれて、エドさんは真っ白になっていた。シロがエドさんの上から退くと、カラさんがエドさんに駆け寄った。エドさんは手を差し伸べたカラさんの手を振り払ってフラフラと森へ歩いて行った。
カラさんは傷ついたような顔をしたが、慌ててエドさんを追いかけて行く。
「二人は私達が見ておくわね」
フェルミルさんとアリリスさんが森へ向かった二人の後を静かに追っていった。
「はぁ……」
その場の空気は最悪だ。ナディアは落ち込んだ様子でため息をついた。時にははっきりと自分の気持ちを伝えるのも大切だけど、相手が傷つくとわかっていて言うのは伝える側もダメージを負う。
ましてや集団の和を乱すことを好まないナディアの事だ、この状況に少なからず責任を感じているだろう。
「気にすんな、全面的に空気の読めないあいつが悪い」
メルヴィンがナディアの肩を叩いて慰める。その意見には僕も同意する。
それにしてもどうしようか、明日までこの気まずい空気の中いくのかな……それは嫌かもしれない。なんとかしないとな。
「あー、お前達はとりあえすテントを張っとけ。後はアリリス達が上手くやるだろ」
マシンさんの言葉に従って、僕らはテントを完成させる。
すると森の奥からカラさんとアリリスさんが戻って来た。エドさんはどうしたんだろう?
「ごめんなさい!あいつ馬鹿で、惚れっぽくて、いつもみんなに迷惑かけて!本当にごめんなさい!」
突然カラさんが僕達に頭を下げた。あいつってエドさんの事かな?惚れっぽいってことはもしかしたらこんなことも初めてじゃないのかもしれない。
「エド君、帰っちゃったの。フェルミルがついて行ったから、心配しないで」
帰った!?僕らは驚愕して顔を見合わせた。荷物もここに残っているのに、いったい何がどうしてそうなったのか……
「私があいつを怒らせちゃって……もう帰るって……本当にごめんなさい……」
カラさんは消え入りそうな声で頭を下げ続けている。なんだかカラさんがとてもかわいそうに思えてきた。謝罪するべきはカラさんじゃないだろうに……
「そんな、謝らないで。私もきつく言いすぎたし……」
ナディアがカラさんの頭をあげさせる。それでも謝罪の言葉を続けるカラさんをみんなで落ち着かせた。
「まあ、帰っちまったもんはしょうがない。気を取り直して夕食の支度をしよう。早くしないと真っ暗になっちまうぞ!」
僕はマシンさんにこっそりお願いした。夕食をちょっと豪華にしてもいいかって。この暗い空気をちょっとでも変えたかった。マシンさんは苦笑して許可を出してくれた。
本当は今日は狩った魔物肉を焼くだけの予定だったんだけど、僕は温かいシチューを作ることにした。この世界では見たことのないクリームシチューを作ろうと思う。この世界ではシチューと言えば茶色いやつだ。
僕は魔法のカバンから次々に材料と調理器具をを取り出した。
「……エリス?持ち物は最小限にって言ったよな?なんでそんなに食材が出て来るんだ?」
マシンさんには当然のごとく怒られた。だって少しでも美味しいものが食べたいじゃないか。僕は隙あらば作ろうと思って食材を持って来てたんだ。カラフルのみんなは大喜びで僕を称えてくれる。
みんな僕の言う通りに食材を調理してくれて、いい匂いが漂ってきた。
見たことも無い謎の料理が出来上がってゆくのを見て、大人組とカラさんは困惑している。
「すごくいい匂いがするけど、なに?それ?」
「クリームシチューです!」
自信満々な僕に、みんな首をかしげていた。
「エリスは料理上手だから、絶対美味しいはずよ!はい、カラさん」
ナディアが器にたっぷりとシチューをよそってカラさんに渡す。みんなで食前の祈りをささげたら、カラフルのみんながシチューに飛びついた。その光景を見て、カラさんも恐る恐るシチューを口に入れる。
「美味しい……!」
さっきまでの重い空気はすっかりなくなっていた。温かいシチューはみんなの心も温めてくれたみたいだ。カラさんとナディアは話がはずんでいるようで、楽しそうだ。同じ女性剣士の友達ができて、ナディアは嬉しいだろう。




