157.ギルドの研修
冒険終わりに冒険者ギルドに併設された食堂で休んでいると、ナディアが悔しそうに話し出した。
「そうだわ、前にそろそろ泊りがけの冒険に行きたいって話したでしょう?院長先生に聞いてみたら、まだ早いんじゃないかって言うのよ。私とメルヴィンはともかく、エリス達はもう少し大きくなってからの方がいいんじゃないかって……」
ナディアの言葉に、テディーも微妙な顔をした。
「僕もおばさんに心配されちゃった。夜の森は危険だからって」
泊りがけの冒険に一番乗り気だったメルヴィンはとても残念そうだ。
「あー、保護者に止められたら強行できないな。残念だけど諦めるか……」
シュンとしてしまった僕達に、さっきからシロを撫でまわしていたマシンさんが話しかけてくる。マシンさんはソロの金級冒険者だ。
「ギルドの研修として行くのはどうだ?お前達は素行もいいから、ギルドも許可してくれるだろう」
ギルドの研修?勉強会ってことかな?そんなものあったんだ。
「初心者研修は昔はよく行われたんだ。でも指導を希望する初心者と指導を買って出てくれるベテランの数が合わなくてな。トラブルも多かったし段々無くなっていったんだ。若い冒険者を死なせないためには必要な制度だと思うんだがな……ギルドも慈善団体ではないから、しょうがないんだが」
マシンさんはなんだか遣る瀬無さそうな顔をしていた。聞くと、冒険者が帰ってこなかった時捜索に行くのはベテラン冒険者が多いらしい。僕らはシロが居るから、他の同じ年の子達より活動を許されてる範囲が広いけど、本来子供は森の浅いところにしか入れない。それでも奥に迷い込んで帰ってこない子が毎年居るんだそうだ。
悲しいことだけど、本来は冒険はそれぐらい危険な物なんだ。僕らは本当にシロ様様だ。
「お前らが希望するなら、俺が指導をするからってギルドと交渉してやるよ。大人が付いているなら一泊ぐらいは許可が出るだろう。何事も経験だしな」
僕達が喜ぶと、近くの席から待った!と女の人が叫んだ。
「その研修。私達も指導役として参加させてくれない?ついでに森での宿泊の研修をさせたい子達が居るのよ、合同研修ってことでどう?」
彼女達は女性三人組の金級冒険者だ。金級の中では唯一、メンバー内に『鑑定士』が居る。僕らが冒険者登録した時にギルドのお姉さんがテディーに紹介してくれたグループだ。
テディーは同じ鑑定士であるアリリスさんに色々聞いていたみたいだけど、僕はあまり話したことは無い。
「合同研修……あの、剣を教えてもらえたりもしますか?」
ナディアが残りの二人の剣士に聞いた。確か名前はリーンさんとフェルミルさんだ。女性剣士で金級まで上がれるのは珍しいから、教えを乞いたいんだろう。
「もちろん、構わないよ!女性剣士は男とは戦い方も違ってくるからね。私も昔は指導してくれる人が居なくて困ったもんさ」
リーンさんの言葉にナディアはとても嬉しそうだ。僕達が通っているのは魔法学園だから、女性の剣の先生はいない。もしかしたらずっと悩んでいたのかもしれないな。
「研修させたい子達ってどんな子達なんですか?」
僕がフェルミルさんに聞くと、穏やかな口調で答えてくれる。
「私の姪っ子よ。幼馴染の男の子とパーティーを組んでいて、今十五歳。セイフォード剣術学校に通いながら冒険者をしているから、やっと銀級に上がったばかりなの」
セイフォード剣術学校は名門中の名門だ。僕達の通うマルダー魔法学園ほどではないけど、入学するのは難しい。入学者の九割以上が『剣士』『武闘家』などの戦闘系ジョブ持ちで、そこを卒業しただけで職には困らないと言われている。
「剣士は基本魔法使いと組んで戦うでしょう?でもあの子達は二人とも剣士だから……たまには魔法使いと組んで冒険させるのもいいんじゃないかと思って」
確かに、僕らは従魔も含めれば魔法使いが多すぎる。お互いにいい勉強になるかもしれない。
早速マシンさん達がギルドのお姉さんに掛け合ってくれて、僕らの研修が決定した。
年の近い子と一緒に冒険に行くのは、前に孤児院の子のテイムに付き合って以来だ。仲良くできるといいな。
その日は野営に使う道具などの説明を聞いて、研修日までにそれを用意しておくことになった。
パスカルさんのお店に行ったらきっと良いものを紹介してくれるだろう。みんなで買い物に一緒に行こうと約束して、僕は最近塞いでいた気持ちが上向くのを感じた。
やっぱり冒険は楽しいことがいっぱいだ。




