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祝福されたテイマーは優しい夢をみる【2巻発売中】  作者: はにか えむ


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154/186

154.お母さんの日記

 僕は急いで家に帰ると、部屋に飛び込んだ。

 ベッドの上に寝そべると、お母さんの日記を読み始める。アオ達も興味深そうに日記を覗き込んでいた。

 最初の日記は子供の頃に書かれたものなのだろう、日記帳をデリックおじさんに貰ったと書かれてある。

 貰ってから数日は毎日書かれていたんだけど、すぐに数日に一回になった。あまりマメな性格じゃなかったんだろうなと想像できて笑ってしまう。

 一冊目の日記帳は、とにかく微笑ましいの一言だった。今日は剣を買ってもらって嬉しかっただの、魔物の討伐に行っただの、そんな嬉しかったこととか楽しかったことばかりで溢れていた。

 

 二冊目の日記帳は、前半は一冊目と変わらない内容だった。しかし後半になるにつれて、年頃らしい悩み事が増えてゆく。僕はこれを読み進めていいのかちょっと不安になった。

 お母さんの日記だと思って何も考えずに読み進めてしまったけど、冷静に考えたら人の日記を読むなんていけないことだよね。

 僕は日記を閉じようか迷った。

『いいのですか?お父さんのことが何かわかるかもしれませんよ』

『そうなの!きっとなにか書いてあるの!』

 モモとアオが言うので、僕は悩んだ。そして結局好奇心に抗えなかった。だってどうしても知りたかったんだ。大人たちが内緒にしている僕の事を。

 

 お母さんに頭の中で謝りつつ、日記を読み進めていると、所々黒く塗りつぶされたページにたどりつく。

『ネリー様に聞いた。まさか私が××××の子供だったなんて。××××が私のお母さん。とても嬉しい。』

 よく読んでみると、文字を塗りつぶしたのはお母さん自身らしかった。万が一にも秘密がバレないようにそうしたらしい。

 それからしばらくは、平穏な日常が綴られていた。たまに塗りつぶされたページがあったけど、内容を推察することはできなかった。

 

『ネリー様とデリック兄さんと一緒に、××××××××に赴いた。××××××××は中立派のはずだ。ネリー様が言うには王の動向を探るために中立派を装った七賢者派らしい。政治の難しいことはよくわからない。でも私はそこでとてもかっこいい人に出会った。××が難しい話をしている間、その人は私に庭を案内して剣を教えてくれた。私達はこっそりまた会う約束をした。すごく嬉しい。でもどうしよう。女の子らしい服なんて持ってないや。』

 僕はその文章を読んで緊張した。きっと僕のお父さんの事だと思った。一度日記を閉じて深呼吸する。

 アオ達も緊張したように僕を見つめていた。チャチャだけは寝ていたが。

 

 僕は続きを読んだ。

『今日はパトリック様とデート。彼は貴族なのに、デートの場所が下町なのは申し訳ない。彼は私が目立てないことをわかって私に合わせてくれている。優しい彼があの悪辣な王の下で働いているのが心配でしょうがない。王の監視任務なんて早く終わってくれればいいのに。』

 手が震えた。僕のお父さんの名前はパトリックと言うらしい。どうやら王様の騎士をしていたようだ。近衛騎士と言うやつか。

 エヴァンス伯爵家の嫡男の名前はセドリック様だった。彼は僕の父親ではなかった。嬉しいような、残念なような気持ちになった。

 僕はそのまま日記を読み続けた。

 

『子供ができた!パトリック様はすぐに結婚しようと言ってくれた!パトリック様のお父様ももう王に仕えるふりをするのは止めるとおっしゃっている。子供の名前はエリスにしようと、パトリック様と相談して決めた。エリス、早く生まれてきて!お母さんは待っているからね!』

 泣いてしまいそうだった。僕はお父さんとお母さんに望まれて生まれてきた。僕はどこかで不安に思っていたのかもしれない。僕はいらない子だったんじゃないかと。

 でも違った。そのことがどうしようもなく嬉しい。

 それからしばらくは、僕が生まれてくるのが楽しみだ、そんな事ばかり日記には書いてあった。

 僕は、幸せな気持ちでページをめくる。

 

 それは、突然の事だった。空白のページが続いて、もう終わりかなと思った頃。

 突然現れた文章に、僕は戦慄した。

『どうしてパトリック様が殺されなければならなかったの?私は王を決して許さない。』

 乱雑に書きなぐられた文章は、涙の跡で滲んでいた。

 日記はこれで終わっているようだ。

 僕は茫然とした。僕のお父さんは死んでいる。王に殺された?おばあちゃんを亡くした時とはまた違った衝撃が、僕を襲った。

 アオ達が心配そうな顔で僕を見ている。衝撃が強すぎて、涙すら出ない。全く現実感が無かった。

 ただ茫然としてぐるぐると考え込む僕に、アオ達はずっと寄り添ってくれた。

 

 調べよう。お父さんについて。パトリックと言う名前の貴族としかわからないけど、図書室には古い貴族名鑑があったはずだ。僕は知りたかった。だって他ならない自分の事なんだから。

 

 

 机に置かれたおばあちゃんのペンダントを見つめて思う。

 ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんがこれを残したってことは、僕は知りたがってもいいってことだよね。もう、何も知らされないままなんて嫌だよ。たとえそれが僕の我儘だったとしても。

挿絵(By みてみん)

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