153.おばあちゃんの隠し部屋
今日は気持ちを整理したくて、おばあちゃんと暮らした家の掃除に来ていた。アオの浄化魔法ですぐ掃除はできるんだけど、なんだか今日は自分で掃除したい気分だった。
『エリス。見てください!花壇にベリーが生っていますよ』
モモが嬉しそうに庭を走る。僕はベリーを取ってみんなで食べた。
結界で野生動物すら入ってこれないようになっているからか、実は大きく育っていた。
思えばここに来るのは久しぶりだ。数か月振りに庭を見渡すと、植物が生い茂りすっかり様変わりしていた。
変わってしまった景色に、寂しい気持ちになる。うん、今日は徹底的に綺麗にしよう。
「まずは雑草を綺麗にしようか」
僕が言うと、モモが残念そうな顔をした。ベリーだけは残しておいてあげよう。美味しかったしね。
『掃除している間、チャチャは俺が見ておくぜ』
チャチャはここに来てからきょろきょろと落ち着きがない。また迷子になられたら困るのでクリアにお礼を言った。
僕は除草用の魔法薬を庭に散布する。これを撒くとたちまち植物は枯れ、しばらく草が生えなくなるという優れモノだ。雑草以外にも効いてしまうため菜園には使えないけど、庭の除草にはこれで十分だ。
庭が終わると、次は建物の中を綺麗にする。中もずいぶん埃が積もっていた。
僕は椅子に乗って上から掃除を始めた。
チャチャが珍しそうに家の中を走り回るので、埃塗れになっている。後で洗ってあげなきゃな。
シロは床にある埃が毛に付かないように大人しくしている。
アオとモモはシロの上でお昼寝タイムだ。クリアはチャチャの監視を頑張ってくれている。
掃除をしながら、僕はエヴァンス伯爵達の事を考えていた。僕を見た時の表情と、七賢者との親しさから考えて、彼らは恐らく僕の出生について知っている……と思う。デリックおじさんの態度も妙だったし。
しかし考えても考えても答えに行きつくことはない。
ぐるぐると考えている間に大半の部屋の掃除を終えてしまった。最後はおばあちゃんの部屋だ。
僕がおばあちゃんの部屋の掃除をしていると、アオがやって来た。
『エリス、ちょっと隠れさせてほしいの』
どうやら目が覚めてかくれんぼでもしているらしい。最近のチャチャのブームなんだ。
「いいよ、もう掃除も終わるから」
すると、アオはドアの陰に隠れる。チャチャが探しに来たらここには居ないって言ってあげよう。
本当は従魔達でかくれんぼは成立しないんだ。だってシロは匂いを追えるし、気配や魔力に敏感な子達も多い。でもみんな幼いチャチャに付き合ってやっている。とても微笑ましい。
『ねえ、エリス……そこ、おかしいの』
僕が掃除用具を片付けてる間、天井を見つめていたアオが言う。
「そこ?何がおかしいの?」
僕はアオの視線の先を追った。普通に天井しかない。僕はじっとその場所を見つめた。すると何か違和感を覚える。
「魔法の痕跡?」
天井に何やら強力な魔法がかけられているようだ。それが解けかかっている。
『多分隠匿の魔法なの!』
アオの言葉に、僕はなぜかおばあちゃんの部屋に置いてあった高い脚立を持ってきて天井を探る。
すると、天井の一部がガタリと音を立てて開いた。
「屋根裏……?」
僕は脚立の一番上に乗ると、穴の中に入る。そこに広がっていたのは埃一つない屋根裏部屋と一台の小さなテーブルだった。
僕の後に続いて、アオも屋根裏に入ってくる。
『なんなの、この部屋。隠匿の他にも継続浄化とか、高度な魔法がたくさんかけてあるの。お宝の気配がするの!』
お宝と言っても、テーブルしかない。その上には一枚の紙と数冊の本が置かれていた。
僕は恐る恐るテーブルに近づいた。置かれた紙を見ると、こう書かれている。
『これだけはどうしても処分できなかった。ルースの日記が、遠い未来にエリスの手に渡ることを願って。 ネリー』
お母さんの日記?僕は置かれた本をまじまじと見た。確かに、本と言うよりは分厚い日記帳のようだ。
僕は緊張しながら日記帳を手に取る。パラパラとめくってみると、所々不自然に黒く塗りつぶされているようだった。おばあちゃんがやったのかな?
パッと見たところ、毎日書かれているわけではない。始まりは大体今日は嬉しいことがあったとか楽しいことがあったとかだから、変わったことがあった日だけ書いていたんだろう。
僕は一度日記帳を閉じた。目を閉じて深呼吸する。嬉しくて泣いてしまいそうだった。早くお母さんの日記を読みたい。僕は日記帳を大切にカバンにしまうと、シロ達と合流して急いで屋敷に戻った。




