146.ドワーフの里へ
休日、僕はエリカ族長と一緒にドワーフの里へ行くことになっていた。
シロに乗ってエルフの里に向かう。
『ドワーフ、ドワーフ、ど~んなところに住ん~でるの』
アオの歌を聴きながら移動するのも久しぶりかもしれない。最近はカラフルのみんなでいることが多かったからかな。
エルフの里へ着くと、エリカ族長が待っていた。
「おはようエリス。また少し大きくなったか?」
族長に持ち上げられて笑われる。前に会ってから一週間も経ってないのにそんなに大きくなるはずないじゃないか。
「ははは、日々大きくなっているように見えるんだがな、気のせいか」
今日の族長は上機嫌だ。僕はなんだか変だなと思った。少しお酒の匂いがする?
「エリカ族長、お酒飲んだんですか?」
「ああ、さっきドワーフに贈る酒の試飲をしたな。一口で少し酔いが回ったようだ」
一口で酔いが回るお酒ってかなり危険なんじゃ……。
「その名も竜殺しだ。お前は大きくなっても絶対飲むなよ、下手をすれば死ぬぞ」
竜も殺せるお酒ってことかな。それは怖い。僕は殊勝に首を縦に振る。
「ははは、いい子だ。ではエルフの里の秘中之秘、転移ポータルをお目にかけようじゃないか」
そして族長は歩いてゆく。転移ポータルは、里の奥まったところにひっそりとあった。見た目は普通の民家だ。
『なんか妖精の匂いがするよ』
シロが鼻をひくつかせて言う。僕が族長に聞くと、こう返って来た
「すべての種族を繋ぐ転移ポータルは妖精が管理してくれているんだ。一番魔法が得意な種族だからな」
なるほど。確かに転移ポータルは扱い方を間違えると危険だし、優秀な魔法使いがメンテナンスしないとダメなんだってどこかで聞いた。
「そういえば、クリアはどうする?今日は家族と過ごす?」
『いや、今日は俺もついてくぜ。心配なのもいるからな』
クリアがチャチャを見て言う。この間の迷子の一件からチャチャはずっと監視されている。でもチャチャに気にした様子は無く、いつも自由だ。昨日なんて街の中でひとりでどこかに行こうとしてクリアに止められていた。止められればちゃんという事を聞くからまあいいんだけど。いつか迷子になったり誘拐されそうで怖くて防犯魔法道具を早々に買った。
「それじゃあ、行くか。先ぶれは出してあるからな」
僕は族長と手をつないで転移ポータルを潜る。光に包まれた後、一瞬で景色が切り替わった。
「久しいな、エルフの族長。またすごいのを連れておるな」
目の前にいた小さな髭の長いお爺さんが、シロを見て言う。
「久しいな、ドワーフの族長。シロは私ではなくこの子の連れだ。ネリーの弟子だよ」
「エリス・ラフィンです。初めましてドワーフの族長」
僕が挨拶すると、ドワーフの族長は目を細めた。
「私はドワーフ族の族長、トラディスじゃ。……お前はネリーとは全く似とらんのう。礼儀正しくいい子そうじゃ」
「あはは、そうだろう。エリスはネリーと違って可愛いんだ」
おばあちゃんはドワーフの里で何をやらかしたんだろう?僕は普通に挨拶しただけなのに、いい子認定されてしまった。
「ネリーが亡くなったと聞いた。わざわざ知らせに来てくれて感謝するよ。我々の中にはネリーと親しくしていた者が多くいるでな。皆で弔いぐらいはしてやりたかった。また酒を酌み交わせないのは残念じゃが、こうして弟子と話せることを嬉しく思う」
「知らせが遅くなって申し訳ありませんでした。僕はおばあちゃんがドワーフ族と交流があったなんて知らなくて……」
「まあたまにフラッとやって来て、酒をしこたま飲んで帰っていくくらいじゃったからな。致し方あるまい」
トラディス族長はどこか悲しそうに笑った。たったそれだけなのに、きっと良好な関係を築いていたんだろう。おばあちゃんは凄いなと、改めて思う。
「まあ、立ち話もなんじゃ。弔いの準備はできておる。話はそれが終わってからでいいな?」
「ああ、かまわないよ」
僕達はトラディス族長の案内でドワーフの里に入った。何もかもが木や草でできたエルフの里とは違う。ドワーフの家はみんな石造りだった。
歩いていてもすれ違う人はいない。不思議に思っていると、広場に到着した。そこには大勢のドワーフ達が居て大量の酒樽を運び込んでいた。




