143.宴会とドワーフ
「よし、今日は宴会だな」
エリカ族長が楽しそうに言った。
「折角エリスの仲間が増えたんだ、お祝いしないとな」
元々僕らは今日エルフの里に泊まる予定だった。だから宴会でもいいんだけど、本当に宴会大好きだなエルフ族。
『お祝いしてくれるの?ありがとう』
グレイスの腕の中からチャチャがお礼を言った。僕も一緒にお礼を言う。
「ナディア、シロが狩った肉の一部を私が買い取ろう。今夜は肉祭りだ」
やったとメルヴィンが歓声を上げた。そうとなったらスネーク狩りはこの辺にしてもっとお肉を狩りたいよね。
僕らは協力して大きな獲物を狩る方向にチェンジした。チャチャをグレイスから預かると、モモがここぞとばかりにグレイスの腕に飛び乗る。グレイスはモモを撫でて、モモは満足そうだ。
よかった、やっぱりこの組み合わせだよな。チャチャには僕の胸ポケットに居てもらおう。
その後はみんなで協力して大きな獲物を狩った。
エルフの里へ帰ると、族長が宴会を始めると緊急伝達する。
里の広場に続々調理器具を持った女性達が集まって来た。
すごいな、ちゃんと連絡網があるらしく、里の住民に余すところなく情報が伝わってゆく。
僕のテイム祝いなんてみんな関係ないことだと思うんだけど、暖かくテイムおめでとうと声をかけられた。なんだか気恥ずかしいな。
チャチャは女性達に大人気だった。元々里でも人気の魔物らしい。ペットとして飼っている人もいるとか。そういうところは人間とおんなじだなと思う。
クリアが戻って来て、仲間が増えて驚いていた。
『俺にもやっと後輩ができたか。歓迎するぜ、弟よ』
やっぱり兄弟設定なんだなと僕は笑ってしまった。
『チャチャは小さいからあんまりエリスのそばを離れたらダメだよ、迷子になっちゃうからね』
いつもはアオに諭されて弟っぽいシロが兄貴風を吹かせているのは可愛い。クリアもモモもしっかり者だから、シロがお兄さんっぽいことってなかなか無いんだよね。
「迷子になってもシロが匂いで見つけてくれるよ」
チャチャにそう言うと、チャチャがシロを尊敬の目で見ていた。
シロも得意そうだ。
宴会が始まると、前回同様大騒ぎだ。僕らはエルフ族の踊りを手を叩きながら楽しんだ。
「そういえばエリス。近々一緒にドワーフの里に行かないか?」
僕は首を傾げた。ドワーフと言えば鍛冶が得意な種族だったはずだ。族長はどうしてそんなところに行くんだろう。
「この間人魚の里で人間にしか見えなくなるイヤリングを借りただろう。あれはどうやらドワーフからの贈り物だったらしいんだ」
「ドワーフって、魔法が苦手なんじゃないの?」
僕は疑問に思う。あんな高度な魔法、ドワーフにかけられるのかな?
「恐らくドワーフ族と他の種族の合作なのだろう。なんの種族なのかはわからないが、ぜひ欲しくてね。エルフ族はドワーフとはあまり仲がいいわけではないから、心細くてな。一緒に来てくれないか?」
人間の僕が行っても怒らせるだけなんじゃと思うけど……違うのかな。僕は困惑した表情で族長を見た。
「なんだ、知らないのか?ドワーフの族長とネリーは酒飲み友達だったらしいぞ」
おばあちゃん……。よくドワーフと一緒にお酒飲めたな。ドワーフは酒豪で有名なのに。
そういえば、僕と一緒に暮らしてた時も、たまに飲んでたっけ。一気にボトル三本くらいいつも空けてたな。昔はあの量は普通なんだと思ってたもんだけど、一人の酒量としては多すぎなんだって今のお屋敷に来てから気が付いた。飲んでも平然としてたもんな、おばあちゃん。
ドワーフの族長にはおばあちゃんの死を知らせていない。交流があるのなんて知らなかったからだ。ならおばあちゃんを看取った僕は行くべきだろう。
僕は族長に一緒に行くと言った。族長は嬉しそうだ。
「では来週の休みに一緒に行こう。土産の酒は私が用意するからな」
「エルフのお酒で満足してくれるかな?」
僕は飲んだことはないけどエルフのお酒は度数があまり高くないらしい。僕が心配していると、族長が言った。
「実はとっておきがあるんだ、一口で魔獣を昏倒させるほど強い酒があってな。地獄絵図になるから宴会では出さない決まりだ」
地獄絵図……どんだけ強いお酒なんだろう。ちょっと気になるな。
それならきっとドワーフも喜びそうだ。
僕は来週が楽しみになった。




