141.救援要請
季節は秋になった。そろそろ対抗戦の時期だ。僕らは旅から帰って来てからもトリニちゃんと手紙のやり取りをしている。今日僕らは学園の休みに冒険に来ていた。
ナディアがちょっと多めに稼ぎたいというのでエルフの里近くの森を散策している。
「みんなありがと!来年は学園に入りたいっていう子が多いから、助かるわ」
ナディアは嬉しそうだ。一人でも多くの子を学園に通わせてあげたいんだろう。僕らが通う学園以外にもいくつか近くに学園がある。
「小さな子供達の為に頑張るのは良いことだ。いくらでもこの森で狩りをするといい。里のみんなも感心していたぞ」
エリカ族長が引率してくれながらナディアを褒める。孤児院の子達はみんなで助け合って生きている。ナディアもいつも稼いだお金の一部を院に納めていた。ナディアの歳では孤児院ではもう大人扱いだ。
シロは沢山狩りをしていいと聞いてさっきから大はしゃぎで色々な魔物を狩っている。ナディアの元に持っていっては褒められて嬉しそうだ。
テディーも珍しい鉱石や植物をかき集めて楽しそうにしている。
エリカ族長も微笑ましそうにしているので問題ないだろう。
お昼に差し掛かった頃だった。小さなシュガーグライダーが僕らの前に姿を現した。いわゆるフクロモモンガだ。
彼らは攻撃する術を持たないから基本無害だ。狩っても売れないし、生きたまま捕獲してペットショップに売るくらいかな?テイマーでなくても飼うことが許されている魔物だ。
「か、可愛いですー!」
グレイスが一目で虜になっている。
「珍しいな、こいつらは警戒心が強いからめったに人間の前に姿を現さないのに」
族長が不思議そうにしていると、シュガーグライダーはこちらに駆けてきた。そして僕の足にへばり付く。
「え?なに!?」
別に攻撃されるでもない、ただワンワン鳴いて僕の足に必死にくっついている。
『この子、助けてって言ってるの』
アオが通訳してくれる。助けるって、いったい何があったんだろう?
みんな興味深そうにこちらを見ている。僕はアオに通訳してもらって訳を聞いた。
どうやらこの子達の住処が天敵のスネークに襲われているらしい。
「大変です!早くいかないと!」
グレイスはそれを聞いて行く気満々だ。
みんな座っていた倒木から腰を上げると、シュガーグライダーの案内に従って歩いてゆく。
「すごいなエリス。こんなの前代未聞だぞ」
エリカ族長は楽しそうだ。里のテイマーでもこんなことは普通起こらないらしい。
まあ、魔物の方から助けを求めてくるなんてそりゃあ無いよね。
案内に従って行くにつれてスネークが増えてきた。スネークは倒すのが大変だ。機動力が高く、木の上からも降ってくるし、細いからなかなか致命傷を負わせられない。
「だー!めんどくせえ!なんでこんなに多いんだ」
大剣使いのメルヴィンにはとにかく戦いにくいらしく、最早剣の横っ腹で殴っている。その度に吹っ飛んでいくスネークが可哀そうだなと少し思った。
嚙まれるたびにアオが治療してくれるから何とかなっているが、そうでなかったらこんな密集地帯には近寄らないだろう。
「多いな、この辺りはエルフでもあまり来ないから、こんなに増えているとは知らなかった」
族長も少し危機感を抱いたらしい。積極的にスネークを始末している。
クリアがいればよかったんだけど、クリアは今日家族と過ごしてほしくて里に置いてきている。
スネークが苦手なグレイスが涙目で突風を起こして吹き飛ばす。片手にはモモが抱えあげられている。精神衛生のために必要なのだろう。
「いっそ焼き払いたいね」
テディーの言葉には完全に同意だ。山火事になるから無理だけど。僕は氷の魔法で凍らせると、風の魔法で切り裂いた。
シロもスネーク相手は苦手らしい。風魔法を纏って近づけないようにして狩っている。
『ごめん、エリス。あんまりとどめを刺せないよ』
シロは大きいからしょうがない。的が小さすぎるんだ。
僕らを案内してくれているシュガーグライダーがカチカチと鳴く。見ると、高い木の穴の中に、沢山のシュガーグライダーが詰まっていた。近くにはスネークも沢山居る。
この子はここから僕らの所まで来たんだろうか?よくたどり着けたな。来る途中でスネークに襲われなかったのは幸運だと思う。
僕らはシュガーグライダーに近づけないようにスネークを狩り続けた。一段落すると、穴の中から沢山のシュガーグライダーが出てくる。ここはとても大きな巣だったみたいだ。
『みんなお礼を言ってるの』
アオが通訳してくれる。それにしてもこの子達は小さくて可愛いな。




