135.お別れの前に
トリニちゃんは里の人魚達の為に沢山のお土産を買いこんでいた。
本屋で何を買おうか迷うトリニちゃんに、こっそり七賢者の本をお勧めしておいた。そこにいるデリックおじさんも出てくる伝記だよと言ったら、本になるほど高名な魔法使いなのかと驚かれた。
この国の本屋には七賢者の本は少ししかなくて、ちょっと寂しかったけど、逆に考えたら全く関係ない国にもお話が伝わっているってすごいことだよね。
喜んでいる僕を見てエリカ族長がまた頭を撫でてくれた。
買い物も終わって帰宅するとき、トリニちゃんは寂しそうだった。
「うちの里から転移ポータルを使って遊びに来たらいいだろう、秘密にさえしてくれたらわざわざ使用料を取るつもりもないから交流を続けると良い」
エリカ族長がそう言ってくれて、トリニちゃんの顔が輝いた。ナディアとグレイスも嬉しそうだ。
「これで可愛いお洋服の作り方、教えられるわね」
ナディアがトリニちゃんの手を取って喜ぶ。
「その代わりうちの里にも遊びにおいで、みんな会いたがっているぞ」
しばらく連絡していなかったからエリカ族長は拗ねているようだった。沢山遊びに行くようにしよう。
別荘に着いた後、トリニちゃんと浜辺で別れる。明日は僕達も国に帰らなければならない。予想外のことばかり起こったけどとても楽しい旅行だった。
浜辺でトリニちゃんと族長の去った海を眺めていると、兄さんが突然手を叩いた。
「そうだ、夕食、ここでとらないか?」
「おおいいな、浜辺でバーベキューなんて楽しそうだ」
おじいさんが乗り気で別荘に向かっていった。メイドさん達に伝えると準備してくれて、あっという間にバーベキューの用意が整った。
夜バーベキューをするのもなかなか楽しい。僕達は食べ修めということで海鮮をたくさん食べた。
バーベキューが終わると兄さんが一冊の本を持ってくる。
「やっぱりシメはこれだろ」
そう言って見せてくれたのは花火と光の魔法の本だ。打ち上げ花火などの魔法陣が載っている。
光の魔法はそのまま空に文字や絵を書いたりすることができるから面白い。その分難しいんだけどね。
この辺りは別荘街だから打ち上げても怒られたりはしないだろう。
「わー結構いろいろな種類があるんだね」
テディーが早速良さそうな花火を見繕っている。
『ねえねえ花火って何?』
シロに聞かれたので説明するとピンとこなかったらしく首をかしげていた。見ればわかるよと言ったら尻尾を振ってお行儀よくお座りして待っていた。
兄さんが杖で魔法陣を描く。この世界の花火は爆発音が抑えられているから近くてもびっくりしなくていい。
空に咲いた大輪の花に、シロは大喜びで飛び跳ねた。
『すごいすごい!キレイだね』
アオはいつの間にか集まっていた海スライム達と一緒に空を眺めている。
モモもシロの上で飛び跳ねながら大喜びだ。クリアはおじいさんと一緒に落ち着いた様子で空を見ていた。
メルヴィンが真上に魔法を撃ったら火の粉が上から降って来た。モモがシールドで防いでくれたけど、ナディアに怒られている。
「そっか、斜めに撃たないといけないのか」
真面目な顔で言うメルヴィンにみんな笑ってしまった。
最初は僕達が適当に魔法で遊んでいたんだけど、デリックおじさんが参加してからは様子が変わった。
一体何重に魔法を展開しているのかわからない速度で次々と色々な花火を空に打ち上げてゆく。
空はまるで芸術家のキャンパスの様だった。僕達は打ち上げるのも忘れてそれに見入ってしまった。
トリニちゃんも今この花火を見ていてくれているだろうか。人魚の里からはきっと綺麗に見えると思う。
デリックおじさんが打ち上げるのをやめたタイミングで、僕はおじさんに耳打ちした。やってほしいことがあったんだ。
おじさんは僕の言葉を聞いて笑うと、空を埋め尽くさんばかりの大きさの緑色の花火を打ち上げた。
その花火が消えると、人魚の島の方向に向けて文字が浮かび上がる。光の魔法で『僕らは友達だよ』と書かれたその文字はしばらく消えることはなかった。
トリニちゃんは見てくれただろうか。
その日の夜僕はおばあちゃんに報告する。人魚のお友達ができましたというと、おばあちゃんのペンダントが少し輝いたような気がした。
その日の夢は不思議なことに、人魚達が花火を眺めている風景だった。最近あまり前世の夢を見ない。きっといいことだよね。おばあちゃん。




