133.族長のお願い
商人のおじさんが去ると、また人魚達が次々姿を現した。
聞くとほとんどの人魚には許された人間としか会ってはいけない決まりがあるらしい。僕らの場合は盟友であるエルフ族と妖精族が里への出入りを許可した人間だから大丈夫と判断されたようだ。特に人の本質を感じとることのできる妖精族が信頼する人間は信用に値するということらしい。
たまに人間に興味を持って話しかける人魚もいたが、たいていの人魚がひどい目にあって帰って来たからそういう掟ができたようだ。人間に会うのは僕らが初めてという人魚がほとんどで、なんだか少し寂しいなと思った。人魚も自由に陸を歩けたらいいのに。
「この国はとても異種族を尊重している方だが、未だほとんどの国が私達の力に怯えながらも珍しい動物のように扱っているからな。この国でさえ未成人の人魚が自由に歩くのは危険なんだよ。捕まって売られてしまうからな」
エリカ族長が僕の頭を撫でながら諭すように言った。僕には他種族を虐げたがる気持ちはわからない。話してみても人間とほとんど変わらないように思う。人間と他種族が真に融和できる日は訪れないのだろうか。
僕のもやもやを感じ取ったのだろう、エリカ族長は僕の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜて笑う。
「まあ、これでも昔と比べればだいぶマシになったんだ。この国の王や、お前のおばあちゃんのおかげでな。あまり深く考えるな」
そうか、おばあちゃんは異種族の保護に積極的だった。僕もおばあちゃんみたいに異種族のために何かできたらいいな。折角いろいろな種族と仲良くなれたんだ。少しでも、僕にできることがきっとあるはず。
「私は少しこちらの族長の様子を見てくるよ。秘薬が効いたが、弱っているからな。何か手伝えることがないか聞いてくる」
エリカ族長が人魚に話かけると、族長は何か膜のようなものに包まれて海の中に入っていった。なんだこれ!?
僕らが興奮しながらその様子を眺めていると、トリニちゃんが教えてくれた。
「この真下に人魚の里があるんです。魔法を使っても人間が長時間水中にいるのは危険なので里の中には入れませんが、上から覗いてみますか?里の様子が見えますよ」
僕らはもちろん見たいとトリニちゃんにお願いした。
人魚のお姉さんたちが魔法でみんなの周りに水の膜を作ってくれると、僕らは水の中に飛び込んだ。
濡れずに水の中に入れるなんてとても不思議だ。
「わあ!すごい!神殿みたいだ!」
テディーの声に下を向くと、真っ白な石造りの建物が沢山建っていた。そこに貝殻やサンゴでできた飾りがついていてキラキラと輝いている。
里はとても深いところにあった。明かりがあるのか海の底なのにとても明るかった。それがますます里を神秘的に見せている。
『石材はどうやって調達しているのでしょう?』
モモが不思議そうに言うので通訳する。
「石材は近くにある島から拝借しています。人間から買うこともあるのですが稀ですね」
人魚の姿の戻ってついてきていたトリニちゃんが説明してくれる。
「ここまで里を作り上げるのにはかなりの時間がかかったそうです。だから誰にも荒らされないように警備は厳重なんですよ」
僕らはしばらく里を眺めながらトリニちゃんを質問攻めにした。
そういえばアオはどうしたんだろう。僕が周りを見回すと、アオは海スライム達に違和感なく混ざっていた。アオは水の中も自由に泳げるんだな。
苦しくなってきたので陸に上がると、クリアが出迎えてくれた。流石に魔法で守られていても水に入る気にはならなかったらしい。
僕らが興奮しながら里の感想を話していると、エリカ族長が戻って来た。
「お前達に族長から手紙を預かって来たぞ」
そう言うと、デリックおじさんに手紙を渡した。おじさんが手紙を読んでくれる。
要約するとこうだ。族長は今回の病の件で、自分に何があっても里が揺らがないようにしておく必要を感じた。だから跡取りであるトリニちゃんに急ピッチで族長の在り方を学ばせることにした。そのために一度人間の世界を見せたい。トリニちゃんに人間の町を案内してやってほしいとのことだった。
「わあ、いいわね!一緒に人間の町でお買い物しましょう!」
「お洋服もたくさん買いましょうね!」
ナディアとグレイスは大喜びでトリニちゃんの手を取って飛び跳ねている。
「私も一緒に行ってほしいと人魚の秘宝を渡されたよ。この耳飾りをつけると完璧な人間にしか見えなくなるそうだ。鑑定も弾くらしい」
エリカ族長が耳飾りの片方をトリニちゃんに渡した。それを付けたトリニちゃんを見てテディーが歓声を上げる。
「すごい!鑑定結果が人間になったよ!これならばれないね」
エリカ族長も早速耳飾りをつけると、長い耳が人間のように変化した。
「この秘宝、エルフの里にも欲しいな。あとでどこで手に入れたのか聞いてみよう」
族長は楽しそうだ。こうして僕らは明日みんなで街歩きをすることになったのだった。




