130.人魚の島へ
翌日僕達は人魚の島へと向かう。昨日に引き続きデリックおじさんが保護者役だ。
浜辺に行くと、トリニちゃんが大きめのボートを二隻用意してくれていた。僕は従魔達と一緒にエリカ族長さんの操縦する船に乗り込む。シロがしっぽを振る度に船が揺れてちょっと怖い。クリアは飛んで付いてくることにしたようで、空へと飛び上がってしまった。
『に~んぎょ~の~しま~。た~のしみっなの~』
アオの歌を聴きながら沖の方へと漕ぎ出してゆく。
「なあに、何も心配することは無いよ。人魚族も温厚な種族さ。よっぽどの事がなければ怒りはしないさ。ましてお前達は族長を救った英雄だからな、心配するな」
船を漕ぎながらエリカ族長が教えてくれる。気を張らずに楽しめばいいか。僕は先導しくれる船に乗った皆に手を振った。シロが大きいから僕だけ別船なのが少し寂しい。
数十分船を漕ぐと、なんだか景色が急に変わったような気がした。これは妖精の里と同じだ。許しを得たものしか入れないようになっているんだろう。
やがて大きな島が見えて、船は桟橋に止まった。
桟橋には強そうな武装をした女の人が二人待機している。そしてその奥には十数人の人が居た。
みんな人魚だろうか。男の人が一人もいない。不思議に思っているとエリカ族長が耳打ちしてくれた。
「人魚族には男はほどんど生まれない。男児が生まれると海の奥深くで大事に育てられるんだ」
なるほど、それで女の人魚ばかりなのか。人魚にとってこの島は陸との窓口でしかないもんな。深海の里に行けば男の人魚もいるのだろう。
僕らが島に上陸すると、トリニちゃんとおなじ緑の髪をした美しい女性が話しかけてくる。
「そなたたちが薬の材料を集めてくれたと聞いた。私がこの辺りの人魚族の族長であるトリアだ。そなたたちには感謝している。今日は楽しんでいってほしい」
それを聞いて、ナディアが心配そうに問いかける。
「もうお体は大丈夫なのですか?」
「まだ本調子ではないので挨拶だけで下がらせてもらうよ。どうしても直接お礼を言いたくてな、トリニが無理を言ってすまなかったな」
僕達は首を振って気にしていないと言う。なかなか楽しい冒険だったしね。
「そうか、それなら良かった。トリニ、彼らをよく持て成すのだぞ」
「はい、お母様」
そう言うと、トリア族長は行ってしまった。帰り際、少し足がふらついているようだったので、本当にまだ本調子ではないんだろう。わざわざ起きてきてくれるなんて義理堅い人なのだろうな。
族長が去るのを見送っていると、五匹ほどの海スライムが飛び跳ねてきた。
『あ、一昨日の子なの!』
アオが飛び跳ねてその子の元へ行く。僕には全く区別がつかない。モモも楽しそうにその子の元へ走っていった。
「皆さんのことはその子に聞いたんです」
トリニちゃんが不思議なことを言う。彼女はテイマーなのだろうか?
「人魚族は海のものと意思疎通が出来るんだよ。スライムは賢いからな。ある程度会話ができるらしい」
エリカ族長がみかねて教えてくれた。凄いな、人魚族。
試しに聞いてみたらアオの言葉はわからないらしい。知能が低い魚や貝類は薄ら感情がわかる程度なのだそうだ。
「この辺りの海スライムとは共存しているんです。みんな情報を教えてくれる代わりに、何かあったら保護しているんですよ」
海スライムは人魚族の諜報員らしい。何だかかっこいいな。アオとモモは先程からスライム達と話が盛り上がっているようで楽しそうだ。
僕らはトリニちゃんの案内で島を見て回ることにした。
桟橋から真っ直ぐに進むと、商店街のような通りにでた。商店街と言っても質素なものだ。屋根とテーブルだけが置かれた簡素な作りになっている。ただそこに並んでいる商品は美しいものばかりだ。磨かれた貝殻や鱗で作られたアクセサリーや、何でできているのかよく分からない美しいラメ入りの反物などがある。
反物はなんと人魚秘伝の魔法で海藻からできているらしい。ラメは魚の表皮から採れるそうだ。
「ここは人間の商人との交易の場です。基本は物々交換ですが、通貨も使えますよ。人間の物価はわかりませんので、高度な鑑定のジョブ持ちが常駐しています。今は商人が来ていないので皆さんも好きにご覧になってください」
そう言われたナディアとグレイスは大喜びでトリニちゃんの手を引いて駆けて行く。女の子同士でショッピングを楽しむつもりのようだ。
男組は何度もここに来ているというエリカ族長が加工食品などの店に案内してくれた。デリックおじさんが海の幸の乾物に夢中になっているうちに、僕らもお土産にと少しだけ反物やアクセサリーを買う。これにはナディアとグレイスがアドバイスしてくれた。トリニちゃんは人間の服の流行の話が面白いらしく、僕らの話を楽しそうに聞いている。
海の底では服は簡素なワンピースの様なものばかりらしい。足が魚な訳だししょうがないよね。人に化けている今もトリニちゃんは質素なワンピースだ。
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