129.千年花
休憩をとりながら最後の千年花探しについて話し合う。
「とりあえずまじないは幸運値アップだけにしておきますね」
グレイスが今まで色々かけてくれていたまじないを幸運値アップだけに限定する。ひとつのまじないに絞った方が効果が大きくなるからだ。
千年花の場所がわからない以上こうする他ない。
「後は日当たりのいい場所をひたすら歩き回るだけだな」
おじさんがため息をつきながら言う。グレイスのまじないが効力を発揮してすぐに見つかってくれたらいいんだけどな。
それから数刻、僕らは森の中を駆け足で探し回った。しかし千年花は見つからない。日が暮れそうになったので今日のところは帰ることになってしまった。
別荘に帰還して浜辺に行く。トリニちゃんは待っているだろうか。
浜辺に着くとトリニちゃんと、夏なのに全身が隠れるローブを纏った怪しげな人が立っていた。
僕らは警戒して一旦立ち止まる。しかしシロだけが嬉々として怪しげな人物の所へ走っていった。
『わーい、族長さんだー!』
族長?どこの?僕は困惑した。
「ああ、やっぱりお前達だったか!久しぶりだな、シロ」
怪しげな人は被っていたフードを取ると、じゃれついたシロを撫でる。
あ、エルフの里の族長のエリカさんだ。
「なんでここに族長が……?」
どうやって隣国まで来たんだろう。転移ポータルも陸路も国境を越えるには厳しい審査があるはずだ。エルフ特有の長い耳は隠せないから通常のルートでは来られないと思うんだけどな。
「ああ、エリス、久しぶりだな。まさかこんな所で会えるとは思わなかったよ。全く遊びに来なかったが元気でやっていたか?」
族長は僕を持ち上げるとグルグル回った。僕はもうそんな小さい子じゃないからやめて欲しい。
「族長!どうやって隣国に来たんですか?」
僕は回されながら族長に聞いた。
「ん?エルフの里にある転移ポータルから来たぞ?同盟を組んだ色々な種族の里と繋がっているんだ。他の人間には内緒だぞ?」
シレッとものすごい秘密を聞かされてしまった。エルフと人魚族と他の種族にも繋がりがあるとしたら、人間なんてあっという間に滅ぼせるんじゃないだろうか。恐ろしい。おじさん以外はみんな顔を青くしている。
おじさんは多分知ってたんだろう。驚いてない。
「今日は人魚の族長が珍しい病にかかったと言うのでな、族長の秘書から人魚の秘薬の材料集めの協力を求められて来たのだよ」
僕を下ろした族長は、トリニちゃんの方を向く。
「そうしたら先走ったトリニが善良そうな人間にすでに材料集めを頼んでしまったというから、詳しく聞いたんだ。それがどうもお前達なんじゃないかと思ってな、こうして待っていたんだ」
トリニちゃんは少し居心地が悪そうにしている。お母さんの事が心配で先走ってしまったのだろう。しょうがないよね。
「材料は手に入ったか?」
族長に聞かれて千年花以外はと答える。
「ならよかった。千年花はエルフの里で栽培している。薬が作れるな」
僕達は驚いた。あんなに探して見つからなかったのに、まさか栽培しているなんて。
「薬効の高い素晴らしい花なのに、人間が無意味に絶滅寸前にまで追い込んだからな。エルフの里では薬用に常時栽培するようにしてるんだ」
自然と共存するのがエルフのあり方だ。人間の好事家の気持ちは理解できないのだろう。ちょっと怒っているようだ。同じ人間として耳が痛い。
「あの……みなさんありがとうございました。お礼をしたいので明日にでも人魚の島にいらしてください。おもてなしします」
トリニちゃんが言うと、僕らは目を輝かせた。まさか人魚の島に行けるなんて思ってもみなかった。明日の朝に迎えに来てくれるそうだ。
僕らはトリニちゃんに集めてきた材料を渡すと、お母さんの快癒を祈った。
二人と別れて別荘に帰る。夕食の席でおじいさんと兄さんに人魚の島に招かれたと言うと羨ましがられた。
「せっかく明日はエリス達と遊ぼうと思ってたのにな、俺ってどうしてこう運が悪いんだろう」
項垂れた兄さんをアオが慰めている。兄さんはアオを抱えてため息をついた。
「しょうがないか、明日もおじいさんに付いて人脈作りに行ってくるよ。いざと言う時隣国に伝があるのは強みになるだろうしね」
「ははは、パーシー、よく言った。明日もこちらの友人を紹介しよう」
おじいさんは兄さんに向かって笑うと、真剣な顔で僕らに向き直る。
「お前達のことだから大丈夫だとは思うが、人魚族を怒らせるでないぞ。昔彼らを怒らせた時、海で魚が一切取れなくなったという伝承もある」
僕らは真剣に頷いた。人魚族は海の支配者だ。それだけは忘れないようにしないと。




