124.旅行前日
放課後の秘密基地で僕らは旅行の話で盛り上がっていた。明日から学園は一週間のテスト前休みだ。
僕らはこの日のために勉強を前倒しで追い込みをした。テスト当日に勉強の内容が抜けてしまうことは無いだろう。
メルヴィンだけちょっと不安そうにしていたけど、メルヴィンもこの一年でだいぶ勉強癖がついたようだしきっと大丈夫だ。
「楽しみだね、テリー共和国。ロージェ王国より発展した国なんでしょ?」
僕達の住むロージェ王国とは違い、隣国は共和国だ。昔は王国だったんだけど、民衆が貴族の暴政に耐え兼ねて革命を起こし、今の形になった。この国も危なかったらしいが、七賢者の活躍で今の形を保っている。
隣国は貴族による技術の独占が早期に無くなったため、街もこの国より発展しているようだ。特に通信手段の発展が目覚しいと聞く。庶民でも使える電話のようなものがあるらしい。この国にも早く普及して欲しいな。
この国は昔の大賢者が完成させた転移ポータルがあるけれど、そろそろそれだけに頼るのはやめた方が良さそうだ。放っておいたらあっという間に移動手段でも隣国に追い抜かれると思う。
まあ、そんな難しいことは大人が考えることだ。僕達は今、明日からの旅行に向けて持ち物の確認などで忙しい。
「海ってどんなのだろうね、写真でしか見たことないから、実物は綺麗なんだろうなぁ」
テディーは海で泳ぐために池で泳ぎの練習をしたらしい。ナディアとメルヴィンなんかは昔は川で泳いで遊んだらしく、泳ぐのは得意なんだそうだ。
僕もグレイスも兄さんにお願いして泳ぎを教えてもらった。
つまりみんなで海に入って遊べるということだ。僕は特に海スライムに会うのが楽しみだった。アオとどんな風に違うのかな。
旅行に行くにあたってそれぞれの保護者の許可はとった。前領主が引率と聞いてそれぞれの保護者は恐縮していたけれど、なんとか許可を貰えて良かった。
今日はみんな明日の準備のために早めに別れる。グレイスと一緒に家に帰りながら明日の話で盛り上がった。
「隣国にも冒険者制度はあるんですよね。この国とは違うでしょうし、隣国の森にも入ってみたいです」
「この国の冒険者証でも隣国の依頼は受けられるみたいだよ。一日時間をとってチャレンジしてみよう!」
隣国では僕達のように小さい子が冒険者をやるのは稀らしいけど、多分大丈夫だろう。明日はおじいさんに言われてデリックおじさんもついてきてくれるから、引率を頼もう。
デリックおじさんも国を出るのは初めてらしい。本当はあんまり国を出てはいけないんだそうだ。
おじさんみたいな『魔法使い』が入国したら、隣国にも警戒される。一人で軍隊並の力があるからだ。おじいさんは自由のないデリックおじさんを友人として哀れんでいたらしい。
だから今回、仲良くなった隣国の権力者を通して許可をもぎ取ったんだそうだ。すごいなおじいさん。
家に帰ると僕は部屋で荷物をまとめる。着替えと冒険グッズと、後は隣国の観光パンフレットだ。他の生活用品は別荘に揃っているらしいから荷物は少ない。
シロが愛用のフリスビーを咥えて持ってくる。アオはお気に入りのカチューシャをバッグに当たり前のように入れていた。モモもリボンを数本持ってくる。女の子は旅先でもオシャレを忘れないらしい。
クリアは特に準備するものは無いらしく欠伸をしていた。
『えーとあと必要なものは……』
シロがおもちゃ箱をひっくり返して考え込んでいる。おもちゃはそんなに要らないと思うけど、なんだか可愛かったからいいかなと思う。
ちょっと荷物が増えるだけだ。
「エリス、ちょっといい?」
お母さんが準備中の僕のところに来て服を差し出した。
えらくシンプルな服だ。
「泳ぐって聞いたから、水着を作ったの。みんなの分あるから持って行ってくれる?」
なるほど、この世界では泳ぐ時も大体普通の服を着る。専用の水着があるのは有難い。
僕はお母さんにお礼を言って水着を受け取る。みんなも喜ぶだろう。
「エリス!やった!俺も明日行けることになったぞ!」
兄さんが部屋に駆け込んできた。にいさんはお父さんの補佐としての仕事があるから行かない予定だったんだけど、行きたいと駄々を捏ねてお父さんとバトルしていた。やっと渋々許可が降りたらしい。
ギリギリに許可をだしたのはお父さんの意趣返しだろう、きっと。お父さんはあれで少し子供っぽいところがある。
「パーシーの分の水着も作ったから後で持っていくわね」
お母さんは結局許可が出るだろうことを分かっていたらしい。ちゃんと兄さんの分も用意していた。
準備が終わって眠りにつく。ちょっと興奮して眠れるかどうか心配だった。
でも大丈夫だったみたいだ。
僕は久しぶりに前世の夢を見た。ヨーロッパに旅行に行った時の夢だ。財布をスられそうになって大変だったらしい。僕も気をつけないとな。
この度アース・スターノベル様より7月18日に書籍版第一巻が発売されます!
詳しい内容やキャラクターデザインなどは活動報告やX(旧Twitter)にて公開していますのでそちらをご覧下さい。
こうして書籍が出せるのは皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!




